横浜に本社があり、全国展開している株式会社ファンケルという会社がある。東証一部上場会社であり、読者の多くは知っていると思われるが、化粧品や健康食品等の製造販売をしている、社員数は1000名をはるか超す大企業である。
このファンケルが2020年度の第11回「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」において、厚生労働大臣賞を受賞した。
周知のように、企業を顕彰する制度は、国や地方自治体をはじめ、各種団体等の主催を含めると200を優に超えるほど多くあるが、この賞は数ある賞の中でも、最も壁が厚くハードルの高い賞といわれるほど厳しい賞である。
例えば審査基準以前の「応募基準」をみると、以下の6項目すべてが該当していることとある。
①過去5年以上、社員の希望退職は募ったことがない
②過去5年以上、重大な労働災害を起こしたことがない
③ここ5年以上、取引先に対し大幅なコストダウン等実施したことがない
④過去5年以上、障がい者を法定雇用率以上に雇用している
(規模が小さく該当していない企業は、安定的に障がい者施設等に発注または施設等からの仕入れをしている)
⑤過去5年以上黒字経営であり納税責任をきちんと果たしている(除く激変)
⑥過去5年以上法令順守をしている
である。
そして、応募基準に該当した企業は、次に50項目からなる「第1次審査基準」、さらには、現地調査である「第2次審査基準」のチェックを受ける。
要はハード面からソフト面に至るまで、真に「人をトコトン大切にした経営がぶれず行われているか否か」が徹底的にチェックが行われる賞である。
こうした性格の賞であるが故、株主価値の最大化こそが、最大の経営目的と考えている多くの大企業とりわけ上場企業は、自薦・他薦を含め、該当する企業が極めて少ない。
しかしながら、主催者である人を大切にする経営学会では、大企業であれ・中小企業であれ、また、上場企業であれ・非上場企業であれ、企業経営の最大の目的・使命は、「関係する5人(者)の幸せの追求・実現」であり、「業績は、そのための手段または結果に過ぎない…」と定義し、その増加のため既に10年以上、様々な取り組みを展開してきた。
こうした中、今回もまた東証一部上場企業が数社受賞してくれたことは、私たちの主張が理想ではなく現実であることを示してくれたものであり、自分事のようにうれしい。
その1社である、株式会社ファンケルが審査委員会の多大な評価を受けた点は、審査委員会が提唱する「五方良し経営」、「ダイバーシテイ経営」が見事に実践されていたからである。
第1次審査項目すべてを紹介する紙面的余裕はないので、そのいくつかを抜粋すると、
①正社員比率(無期雇用社員比率) 98%以上
②社員一人当たりの1カ月当たり所定外労働時間 4.4時間
③管理職に占める女性管理職比率 44%
④社員一人当たり年間教育訓練費 13万円
⑤障がい者法定雇用率 3.33%
⑥仕入れ先満足度調査 毎年実施
いずれの指標も、業界平均・上場企業平均のそれをはるかに上回るものである。
加えて言えば、こうした経営が結果として、実質離職者(転職的離職者)は限り無くゼロに近く、その業績は創業以来40年間黒字経営を持続しているのである。
多くの上場企業が、「株主価値の最大化」という名の「化石のような経営学」を依然信奉しブレまくっているが、同社のような「人をトコトン大切にする経営を愚直一途に続ける上場企業の存在を見せつけられると、真の問題の所在は、規模や上場の如何などではなく、経営者の経営の考え方・進め方と言わざるを得ない。
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筆者紹介
- アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長 坂本 光司(さかもとこうじ) - 1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。