外注企業・協力企業を「コスト」「原材料」あるいは「景気の調整弁」と評価・位置づけている企業が、大企業・中小企業を問わず、依然多い。
こうした評価・位置づけをしているため、今回のコロナ過でもそうであるが、自社の業績を考え、一方的ともいえる大幅なコストダウンや、好況時、あれほど無理を言い、依頼していた仕事を、今度は逆に内作化したり、「より低価格の企業が見つかったからと…」他社への転注を当たり前のように行う。
こうした外注企業・協力企業に対する取引姿勢は、根本的に間違っているといえる。
というのは、外注企業・協力企業で働く社員は、発注者が「できない・やれない・やりたくない」仕事を担ってくれている「社外社員」であり、こうした人々が、コストや景気の調整弁であるはずがないからである。
もっとはっきりといえば、「誰かの犠牲の上に成り立つ経営」が正しい経営とは、到底思えないからである。
筆者は、仕事柄、全国各地の外注企業・協力企業という機能を果たす中小企業を訪問調査する機会が多々あるが、その都度「いい企業になりたかったら『いい発注企業』と、取引きすること」。
逆に、「どう考えても理不尽なことを日常的に平気で行うような企業とは、取引をすべきではない、あるいは近い将来こちらからその仕事を返上すべきである」等と、いつも言うようにしている。
一方、理不尽と思われる取引を行う発注企業という立場の大企業や中小企業に対しては、「もし貴社が逆の立場であったならば、そうした取引や支払いを、する企業と今後も取引を続けたいと思いますか・・・そうした企業に価値ある改善提案をしたいと思いますか・・・」と、アドバイスすることにしている。
こうした中にあって、およそ1年前、見知らぬ中小企業の社長さんからメールをいただいた。
主たる内容は、「私たちをまるで自社の社員、否それ以上に大切にしてくれている企業があります。あのコロナ過にあっても、資金繰りが大変だろうと、代金の前払いや、まるで民間版の『持続化補助金』のような『お見舞金』も支給してくれました。なんとか、コロナを乗り越え、生きながらえることができたのはS社のおかげです。どうか褒めたたえてあげてください・・・」とあった。
先日、このS社を訪問させていただいた。外注企業・協力企業を独立したパートナー企業として明確に評価位置付けた基本方針は見事であった。
そのすべてをここで述べる紙面的余裕はないので、読者の方々も実践してほしいS社が実践していることをいくつか示す。
「提出された見積書を一切値切らない」
「支払金額を問わず、すべて現金決済」
「目標以上の利益が出た場合には外注企業・協力企業にも還元」
「相見積もり・競争見積もりはしない」
「一般的より1割~2割高い発注単価」
そして「12月の支払いは20日締め当月26日払い」等である。
こうした「利他の心」溢れる発注企業が増加すれば、近年、激増する中小企業の廃業も減少し、一方、開業は増加するに違いない。
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筆者紹介
- アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長 坂本 光司(さかもとこうじ) - 1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。