社長の仕事

経営

社長の仕事は5つである。後は全て社員の仕事である。

社長の5つの仕事とは、
1つは、会社の方向を明示すること
2つは、決断をすること
3つは、社員のモチベーションを高めること
4つは、先頭に立って社内で最も働く人であること
5つは、後継者を育てること
である。

売上高を高めること、業績を高めること、原価を下げること、あるいは効果・効率を高めることなどは、社長の仕事ではない。これらは全て社員の仕事である。

売上高を高めることや原価を下げることに、社長が多くの時間を使ったならば、本来の社長の5つの仕事は疎かになるのは当然である。

それもそのはず、社長も社員も一日の時間は24時間、一年は365日で全く変わらないからである。

近年、後継者不足等で年間約5万の企業が廃業しているが、この最大の原因は、社長が5つの仕事の一つである、「後継者の育成」に多くの時間を割いていなかったからである。

社長の5つの仕事の、それぞれの意味、内容を、ここでは、詳しく説明する紙面的余裕はないので、今回は3つ目の「社員のモチベーションを高める」ということについて、少し説明をする。

「社員のモチベーションを高めること」を別の言い方をするならば、全社員が気持ち良く価値ある仕事をしてくれるような「良い経営」をし「良い職場環境を用意する」ということである。

こういうと、読者の中には「業績が上がらなければ、企業は衰退してしまうので、やはり社長の仕事は業績を高めることではないのか?」という人もいるかもしれないが、それは誤解・錯覚である。

というのは、社員の働きがいやモチベーション、さらには組織愛が高くなければ、顧客が喉から手が出るほど欲しいと思う価値ある感動的商品や、多くの親しい仲間に語り継ぎたい感動的サービスの提供などするはずがないからである。

逆に言えば、業績を高めるためにも、社員の働きがいやモチベーションを高める経営が重要なのである。

このことを証明するため、かつて、筆者のグループでは、「社員のモチベーションと企業の業績に関する研究」を実施した。

結論は、社員のモチベーションや働きがいの高い企業の業績は例外なく安定的に高く、逆に社員の働きがいやモチベーションが低い企業の業績は、慢性的に低い、もしくは好不況によりぶれまくっていたのである。

それでは社員のモチベーションを高めるためには、どういう経営を進めていったらよいのであろうか。

その答えは大きく言って「経営のあり方」に関することと「経営のやり方」に関することがある。

詳細は別の機会に譲るが、社員の働きがいや、モチベーションが高い企業と筆者が評価をしている企業を1社紹介する。

その企業はN社という愛知県の企業である。主製品は専用機械の設計製作、社員数は現在160名の企業である。定年無し企業・高齢者雇用のさきがけの企業としても著名であるが、「社長の仕事」を考えるうえでも傾注に値する企業である。

その1つが毎日、社長から社員への声掛けである。社長が出張以外、誰よりも早く出社し、毎日すべての社員に直接声をかけるため、雨の日も風の日も、広い工場内を、靴をすり減らしながら歩き回っている。

出張等で社内にいない社員もいるが、おおよそ声をかける社員は毎日150名前後である。このため、朝一番で声をかける社員も社員食堂でお昼を一緒に食べながら声をかける社員、あるいは出張等で帰った夕方に声をかける社員もいるという。

より驚くのは、全員に固有名詞で、しかもその社員や家族の近況等を話題にしながら、声をかけるのである。もとより、仕事の真っ最中の社員には、アイコンタクトを取るという。

このようにされれば、社員の働きがいやモチベーションが高まるのは当然なのである。

この社長の爪の垢でも煎じて飲んだ方が良いような社長も少なからずいる。

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筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

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