景気全体への影響が大きい半導体の需要が失速
2022年8月2日の日経新聞において「半導体逼迫ピーク越す スマホ・パソコン用 供給過剰に」というニュースがありました。
これまで半導体業界は、コロナ禍の反動による急激な需要の増加等で好業績を上げてきました。
しかし、今年に入ってからスマホやパソコン用の半導体の需要が大きく失速しており、世界的な半導体メーカーであるインテルの2022年4月~6月期の決算は最終赤字に陥ったようです。
当該記事によると、自動車や産業機器、データセンター向けでは今年末くらいまで逼迫感は続くとの見通しのようですが、年明け以降は、これらも在庫調整局面に入る可能性が考えられます。
元々、半導体業界は3から4年の周期で好況と不況を繰り返すと言われています。
一般的な短期の景気循環サイクルとして「キチンサイクル」という言葉がありますが、半導体は他の製品よりも特に生産量や価格の振れ幅が大きく景気全体に与える影響も大きいため、特に「シリコンサイクル」という呼ばれ方をしています。
コロナ禍や金利上昇等に加えて新たな景気減速の火種となることが懸念されます。
景気変動に大きく影響を受ける会社のための考え方
筆者もコンサルティングの現場で、このような景気変動により大きく売上高が増減する会社に触れる機会があります。
そのような会社では、景気動向によって大きく売上高がぶれるため計画を策定しても意味がない(又は計画がたてられない)という声をよく耳にします。
しかし、そうした会社でも借入金の返済や設備投資資金の確保等のため、会社が上げなければならない必要利益は必ずあります。
景気の谷における売上に合わせた生産能力にすれば赤字に陥ることは避けられますが、それでは大幅な固定費削減が避けられないこととなります。
少しでも固定費の削減を避けたい会社の場合は、景気循環サイクルに応じて5年や10年程度のスパンで必要な利益額を算定し、それに基づいた損益構造のコントロールを実施することによって一定期間で必要利益を計上するという考え方を採用しています。
具体的には、以下のようなステップで検討しています。
景気循環に対応する計画策定の4つのステップ
ステップ① 景気循環サイクルの期間で平均的に計上できる売上高を考える
まずは、過去のトレンドを踏まえた自社の平均的な売上高から、自社が行っている事業の長期的な需要動向を踏まえ、景気循環サイクルにおける平均的な売上高を試算します。
例えば、上述のような半導体関連の業界であれば長期的な需要予測の伸びを踏まえて過去の平均的な売上高よりも若干高めに設定します。
一方、自動車部品の金型を製造しているような会社であれば、海外製品の流入や自動車部品点数の減少による需要減少等を考慮して過去平均よりも低めに設定するという感じです。
ステップ② 景気循環サイクルの期間で必要な利益を算出
当該期間で必要な設備投資額や金融機関からの借入金の返済額、必要な内部留保等を踏まえ、当該期間で必要な利益を算出します。
ステップ③ 平均的な売上高で必要利益を賄う損益構造を構築する
①で算出した平均的な売上高で、②で算出した利益を計上できるあるべき損益構造の標準モデルを構築し、それにおける付加価値率や労働分配率等のKPIを設定します。
ステップ④ 付加価値率や労働分配率のコントロールを実施
毎年の売上高は平均的な売上高を上回る期もあれば、下回る期もあるかと思います。
しかし、その中でも標準モデルで設定した付加価値率や労働分配率等を維持するように損益をコントロールしていきます。
そうすると、不況時には売上が標準モデルを下回る分利益が減りますが好況時には売上が標準モデルを上回る分利益が増え、結果、景気循環サイクルの一定期間内では必要利益が確保できるという考え方です。
景気変動によって売上や利益が大きくぶれる会社は、一度実践してみてはいかがでしょうか。
筆者紹介
- 株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 執行役員 中小企業診断士 伊原 和也
- 1996年 武蔵大学卒。大手ノンバンクを経てアタックス入社。中堅中小企業を中心に企業再生支援、M&A支援、中期経営計画策定支援および株式公開支援等を中心にプロジェクトマネージャーとして活躍中。
- 伊原和也の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。