生命保険は本来、自分自身や家族の、死亡やケガ、病気や介護などに備えて加入するものですが、その一方で、他の目的、例えば節税商品としても利用されています。先般、外資系保険会社が行き過ぎた節税保険で金融庁から業務改善命令を受けた、ということも実際にありました。
今回は、この生命保険について、「相続対策」という視点で検討をしてみます。
そもそも「相続対策」とは何か
「相続対策」とは相続が発生した際に生じるであろう諸問題を解決するための対策のことを言います。
この「相続対策」は、「納税資金対策」「遺産分割対策」「財産圧縮対策」という3つの対策で構成されます。
「納税資金対策」とは何か
「相続税を払えるか」という視点での対策のことです。
相続税は相続発生後、10か月以内に現金での一括納付が原則となりますので、この納税資金を準備する必要があります。
そのため、相続財産の現預金、死亡保険金や会社からの死亡退職金、また上場株式の売却資金などで相続税を納付することができるかを確認し、不足する場合にはこの「納税資金対策」が必要となります。
「遺産分割対策」とは何か
「財産を分けられるか」という視点での対策のことです。
揉めることなく財産を分けられるよう、いわゆる「争続」とならないよう、財産の分け方について事前に準備しておく必要があります。
具体的には遺言書の作成や贈与によって生前に移動しておく、という方法があります。
なお、この「遺産分割対策」の際には、財産の取り分として各相続人に最低保証されている、「遺留分」への配慮も必要となります。
「財産圧縮対策」とは何か
「相続税を下げられるか」という視点での対策のことです。
相続税をできる限り抑えるための対策、つまり相続税の節税対策のことです。
例えば、次のようなことを検討します。
- 配偶者については、1億6千万円もしくは法定相続分相当額までは相続税がかからないという「配偶者の税額軽減」という特例の利用。
- 相続人の自宅や事業に使っていた土地については、一定の者が相続するなどの要件を満たす場合、限度面積まで一定の割合を減額評価するという「小規模宅地の特例」の利用。
仮に、自宅の土地について配偶者が相続で取得した場合には、330平方メートルまで評価額の80%を減額。
生命保険の「相続対策」としてのメリット
この3つの「相続対策」という視点で生命保険について見ていきましょう。
「納税資金対策」としての生命保険
まずは「納税資金対策」として、です。
相続が発生しますと、亡くなられた方に掛けていた生命保険の保険金を受け取ることになります。
この受け取った生命保険金は、当然、相続税の納税資金に充てることができますので、「納税資金対策」の1つであると言えます。
「遺産分割対策」としての生命保険
次に「遺産分割対策」です。
生命保険に加入する際、生命保険金の受取人を定めることになります。
生命保険金を受け取って欲しい人を指定することができますので、遺言書作成と同じような効果があります。
「財産圧縮対策」としての生命保険
最後に「財産圧縮対策」です。
相続が発生したことで受け取った生命保険金は相続税の対象になりますが、法定相続人1人あたり500万円までは非課税とされています。
仮に、法定相続人が奥様とお子様2名の計3名であったとすると、1,500万円までは相続税がかからないことになります。生命保険に加入しておらず現金で1,500万円を受け取った場合には、その1,500万円がまるまる相続税の対象になります。
「相続対策」として、生命保険は以上のような効果を期待できることになります。
思わぬ税金の発生に留意する
今回は「相続対策」商品としての生命保険について検討をしましたが、加入する目的をしっかりと認識し、必要な保険であることを確認した上で、生命保険に加入するようにしましょう。
また、「誰に保険を掛け」、「誰が保険料を負担し」、「誰が保険金を受け取るのか」で、税金の取り扱いが変わります。
例えば、夫が保険料を負担していた生命保険について、夫の生前中に、
- 夫が満期保険金を受け取った場合には、夫に所得税(一時所得または雑所得)が発生
- 妻が満期保険金を受け取った場合には、妻に贈与税が発生
することになります。
思わぬ時期に思わぬ税金を支払うことにならないよう、この点についてもぜひ、ご留意ください。
筆者紹介
- アタックス税理士法人 代表社員 税理士 村井 克行
- 1987年 南山大学卒。「会計税務の知の集結と事例の体系化」を確立すべく立ち上げた「ナレッジセンター室長」を務めた後、現在は、組織再編や相続対策など、最新の税法・会社法の知識を生かした永続企業のための総合的な支援業務に従事。誠実で緻密な仕事ぶりは多くのオーナー経営者から高い評価を得ている。
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