迫られる「賃上げ」!~大企業と中小企業の動向と国の取り組み

経営

岸田首相、経済界に賃上げを要請

2023年の大きなキーワードとして「賃上げ」があげられます。

年初、岸田首相の“物価上昇率超える賃上げの実現を”との年頭記者会見がありました。

大手企業では、

ユニクロ:初任給30万(従前25.5万)、正社員年収最大40%引き上げ
サントリー:昇給とベースアップ合わせて6%超を目途に組合と交渉
第一生命:社員およそ5万人のベースアップを実施し、平均5%の賃上げ

等の方針が示され、続々と賃上げのニュースが取り上げられています。

中小企業 賃上げの実態

一方、中小企業はどうでしょうか。

大同生命保険が1月26日に発表した、中小企業9,000社の経営者を対象にしたアンケートの結果によれば、

賃上げを実施する予定(賃上げ実施済みを含む)…34% である一方で、
賃上げ意向はあるが実施できない…14%
賃上げ実施しない…18%

3割強の企業では実施が厳しい実情が伺えます。

具体的な賃上げ率は、

2%から3%未満…28%
2%未満…25%

と、ニュースに出ているような大企業の賃上げに比べると限定的であり、中小企業⇔大企業の賃金格差が更に広がることが懸念されます。

賃上げに対する経営者の悩み

私の支援先である中堅中小企業の経営者の方々とお話していると、以下のWill⇔Must⇔Canの狭間で、今後の舵取りを非常に悩まれています。

  • 社員の生活を考えると賃金は上げたい(Will)
  • 社員の生活水準が下がらないよう、離職しないよう賃金は上げなければならない(Must)
  • 無い袖は振れない。無理な賃上げで安定雇用に影響がでては元も子もない(Can)

賃上げの是非、賃上げ幅を検討するファーストステップとして、決算書から簡便的に、賃上げシミュレーションを行われてはいかがでしょうか。

以前、多くの反響をいただいた「労働分配率のあるべき姿」というテーマの2本立てコラム(後編)の中で、計画やシミュレーションを行う際の「逆算思考での考え方」を紹介しておりますので、是非ご覧ください。

コラム(前編):労働分配率のあるべき姿とは?~適正な人件費を考える
コラム(後編):ニューノーマル時代の「労働分配率」最適化!~計画の逆算で強くて愛される会社へ

中堅中小企業の賃上げに対する国の施策

基本給は、一度上げると簡単に下げられるものでは当然無いため、人件費の分配原資を生み出すことができなければ、中長期的な負担増になることも事実です。

そこで、中堅中小企業の賃上げに対する国の取り組みが重要となりますが、今後活用が見込まれる例としては以下の2つがあげられます。

①事業再構築補助金の延長(中小企業庁)
②賃上げ促進税制(経済産業省)

①事業再構築補助金の延長(中小企業庁)

事業再構築補助金自体は既に活用された企業も多いのではないでしょうか。

2020年度補正予算で1兆1,485億、2021年度補正予算で6,000億、そして今回2022年12月に、2022年度2次補正予算案で5,800億と前年とほぼ同水準での予算規模が確保されました。

ご参考:事業再構築補助金 令和4年度第二次補正予算の概要


これまで売上高減少要件が適合せず、申請出来なかった企業も、売上減少要件を撤廃した成長枠の創設、グリーン成長枠の拡充によって、活用の幅が広がる内容になっています。

また、一定の賃上げ条件を満たした場合、補助率を1/2→2/3へ引き上げるといった、事業の創出(分配原資の創出)と賃上げの実現の両立が可能な取り組みを重点支援する内容になっています。

一方で、本補助金に限らずではありますが、採択後の事業取りやめ、補助金不正受給といった問題も報道されています。

活用にあたっては、補助金受給如何に関わらず、新規事業としてリスクを負うだけの価値あるものか、十分な検討が必要ということは言うまでもありません。

②賃上げ促進税制(経済産業省)

2023年度の税制改正大綱にて、賃上げ促進税制の継続・改正が発表されました。

ご参考:中小企業向け 賃上げ促進税制の概要

改正の一番のポイントは、賃上げ分に対して大企業:最大30%、中小企業:最大40%の税額控除
(改正前は、大企業:最大20%、中小企業:最大25%)と、控除の枠が増加した
ことです。

税額控除ですので、相応の利益が出ていることが前提にはなりますが、賃上げを検討されている企業は活用を検討されてみてはいかがでしょうか。

アタックスグループでは、賃金を含めた人事制度の構築、新規事業開発、税制改正に対する対応相談を支援しています。お気軽にご相談ください。

筆者紹介

株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 取締役
中小企業診断士 平井 啓介
業務系システムを扱う大手システムベンダーを経てアタックス入社。 システムエンジニア時代は、会計システムを中心に、中堅中小企業~上場企業まで業種を問わず、約60社の業務改革を支援。システム企画~導入・運用支援まで、プロジェクトマネジメントのみならず、現場の実態を理解したうえでのサポートを得意とする。アタックス参画後は、システムエンジニア時代に得たITスキル、ロジカルシンキングスキルを応用し、業績管理制度構築サポート、業務プロセス改革サポート(BPR)、事業再生サポートに従事。経営者、管理部門責任者の相談相手に注力している。
平井啓介の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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