寸胴鍋でつくるドレッシング -株式会社ピエトロ

経営

西浦道明のメルマガ 2023年7月

2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載107回目の今回は、福岡県福岡市中央区で、ドレッシング、パスタソースなどの製造販売、パスタ料理をメインとしたレストランの経営などを行う、株式会社ピエトロ(以下、P社)の池クジラぶりを見ていきたい。

P社は、1980年、故・村田邦彦氏(以下、M氏)が、福岡市中央区天神に一軒のパスタレストランとして創業した。

「炊きたてのご飯に合うものは、茹でたてのスパゲティにも合う」というコンセプトのもと、茹で立ての麺に、たらこや、高菜、納豆などの和の食材を組み合わせて提供していた。

当時、パスタと言えば、ミートソースやナポリタンくらいしかなかった時代だったが、2階建ての2階という不便なスペースにもかかわらず、若い女性を中心に評判となり、行列ができた。

1980年当時、P社では、お客様に熱々で茹で立ての本格的なパスタを食べてもらいたいとの思いから、乾麺の状態から麺を茹でるようにしていたが、福岡ではうどんやラーメン文化が根付いていて、お客様は食べ物を待つことにあまり慣れていなかった。

そこで、パスタを出すまでの時間を何とか楽しんでもらいたいと考えたM氏は、その麺が茹で上がるまでに、前菜代わりにサラダを提供した。

そのサラダにかけていたドレッシングが口コミで拡がり、「ピエトロドレッシング」として販売へとつながっていった。

当時、サラダにかけるドレッシングはフレンチドレッシングが主流のなか、M氏は新鮮な国産たまねぎと甘みのある九州のしょうゆをベースにした、日本人の味覚になじむ、まろやかなオリジナル和風テイストのドレッシングを作り上げた。

M氏が、和風ドレッシングを作ったのは、和と洋を融合するオリジナルテイストを模索していたこともあったが、もともと酸っぱいものが苦手だったことから、フレンチドレッシングの酸味が日本人には不向きな人も多いのではと考えた。

そこで、しょうゆベースのドレッシングを作ることにしたのだ。

お店のオープンから2、3ヶ月が過ぎた頃、「このドレッシングだと、家族がサラダをよく食べるので、わけてもらえませんが?」とお客様からの申し出があり、専用の容器もなくワインの空き瓶に入れて渡したことがきっかけで、店頭販売がはじまった。

その後、P社のドレッシングはおいしいと、たちまち評判になった。

また福岡にあるP社のレストランでしか買えないということもあり、福岡空港に降り立ったスチュワーデスが福岡土産に東京に持ち帰ったという話もあるほど人気を博した。

さらには、店に頻繁に通う常連の近所の奥様たちから、子供やご主人の野菜嫌いを直す魔法のドレッシングと評判になった。

次第に、ドレッシングだけを買いにお店に来るお客様も増えて行った。

なお、発売から42年経った2023年、累計出荷本数が3億本を突破するまでになっている。

少しずつ口コミで評判が広まり、深夜までドレッシングの仕込みに追われる日々が続いた。

そんなとき、M氏は、「事業を展開するならドレッシングじゃないか?」とアドバイスを受けた。

自分のお店以外で販売する決断をした際、M氏が最もこだわったのが、「地域一番店のみで販売をする」ということだった。

そこで、M氏が目を付けたのは百貨店だった。

当時はドレッシングの仕込みはもちろん、ボトルに詰めてキャップを締め、ピエトロのシールを貼るまでの全工程が手作業だったため、作れる数が限られていた。

だからこそ、最も注目度が高く、最も品揃えにこだわる百貨店でしか買えないという付加価値を持たせようと考えたのだ。

レストランオープンから2年ほど経った1983年、百貨店で販売を開始した。

その評判が口コミでどんどん広がり、まずは福岡のデパート・博多大丸で販売されたのを皮切りに、翌年、東京の日本橋三越で、そして福岡の老舗デパート・岩田屋でも販売されるようになった。

その後、全国放送のテレビショッピングをきっかけに、全国へと展開していった。

その後、1995年、量販店でも売り出す決断をしたところ、量販店での販売も順調に進んで行った。

P社のドレッシングが、ここまで人気を博したのは、単に売り方が良かったからだけではない。

現在、ドレッシングを1日約5万本、年間約2000万本製造しているが、工場で味の仕込みに使っているのは大型タンクではなく、1回あたり約180本しかつくれない「寸胴鍋」だ。

そこにはM氏の強いこだわりがある。

小さなレストランでお客様にご好評いただいたドレッシングの味は、大量生産では決して生み出すことはできない。

たまねぎは、一つひとつ、人の手でカットして品質をチェックしている。
その他にも、たくさん手づくりの工程を残している。

レストランの厨房と同じように、「少しずつ」をたくさん繰り返し、手間ひまをかけて丁寧に作っているのだ。

P社のドレッシングは、製造工程で加熱処理をしないため開栓前賞味期限が短いのも特徴だ。

一般的なドレッシングは6~8ヶ月ほどだが、P社のドレッシングは3ヶ月としている。

それは、厨房手づくりの味を、作りたての風味のまま味わってもらいたいという思いがあるからだ。

P社は、作りたての風味を守るため、「少しずつ」をたくさん繰り返し、手間ひまをかけて丁寧にドレッシングを作ることで、お客様から高い評価・信頼を得てきた。

P社は、作りたてにこだわった、和風しょうゆドレッシング市場(池)のクジラとなっている。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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