きものの面倒を楽しむ会社 -株式会社きものブレイン

経営

西浦道明のメルマガ 2019年10月

2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介しています。

連載62回目の今回は、新潟県十日町市で、きもの総合加工業を営む株式会社きものブレイン(以下、K社)の池クジラぶりを見ていきます。

K社は、1876年10月、現代表取締役の岡元松男氏(以下、O氏)が、絹織物やきものの産地だった新潟県十日町市で呉服販売業を創業したのが始まりです。

事業は始めたものの、O氏は、お客様は、着物が高価なため汚したくないので、着るのを控えるといった状況に陥っていることに気づき、このままでは日本人が着物から離れてしまうという危機感を強く抱きました。

1980年当時、呉服小売市場は今の6倍を超える1兆8千億円。

業界は、着物がまだどんどん売れており、お客様が着物の汚れを気にし、潜在的にアフターケアを求めていることに気づきませんでした。

しかし、O氏だけは「着物の汚れを落としてほしい」というお客様の声に気づきました。

そこで1983年、K社は業界初で「きものアフターケア」を掲げ新事業を開始しましたが、誰も先が読めていない中、厳しいスタートを強いられました。

バブルが崩壊し売上が落ちて来ると、業界もアフターケアに耳を傾け始めました。

O氏の先見力が功を奏し、1993年以降、K社の事業は成長し始めました。

では、なぜK社がここまで成長発展を遂げることができたのでしょうか。

まず1つ目は、O氏が業界の常識を疑う顧客視点を持っていたことが挙げられます。

既述の通り、売る側は着物が売れていたこともあり、アフターケアの必要性に気づきませんでした。

一方、買う側は、着物のシミや黄班で困っていましたが、持っていく場所がありませんでした。

そのため、「大切な着物だから汚したくない。大事な時にしか着れない」と思い込み、着るのを控えていたのです。

この乖離に、O氏はいち早く気づきました。

2つ目はトータルケア。

K社はアフターケアを進めていく中で、次々と新機軸を打ち出していきました。

着物の汚れを落としているうちに、初めから汚れが付きにくい加工にした方がよいと考え、着物を仕立てる前のビフォー加工を始めたり、信州大学繊維学部との共同研究で、絹織物を水洗いできるように加工した新素材「ふるるん」を開発しました。

さらに、着物を一人で着ることができない人向けに、1人でも簡単に着ることができる仕立てを企画するなど、着物を、気軽に誰にも着てもらうため、着物に関するあらゆることをケアするトータルケアに辿り着きました。

3つ目は、着物のトータルケアをするため、修正から縫製まで自社内で一貫加工ができる日本唯一の規模の工場を建設しました。

加工の主要な部分はすべて内製化し、品質・納期・価格において、お客様に満足いただけるサービスが可能となり、それが大きな差別化要因となっています。

K社は、着物をもっと頻繁に気軽に着たいという、お客様の真のニーズに対応し続けることで高い評価を得てきました。

K社は、着物のトータルケアを通じ、「きものの面倒を楽しむ会社」という市場(池)を築き、そのクジラとなっています。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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