人口減少社会に突入した日本では、国内需要は戦後の消費をリードしてきた団塊世代の一次退職に伴い、ますます減少している。こんな状況下にあって、製造業に限らず、ほとんどの大企業が経営の軸足を海外にシフトさせている。
安い労働コストを目的に海外で生産するという時代から、現在では、経済成長に伴い購買力を増した市場を開拓する目的で海外進出する時代に入ってきた。この流れは、大企業のみならず中堅企業も同様であり、アタックスグループの顧問先企業でも多くの企業が海外に進出あるいは海外と関連したビジネスを展開している。
「貴社が海外進出あるいは海外と取引を始める為には何が欠けていますか」と経営者に尋ねると、「人材と資金」とほとんどの経営者は答える。特に「人材難」を強調する。パナソニック・ホンダ・トヨタといった大企業であれば、長期的な計画により、海外人材を育てることは可能であるが、中堅以下の企業では難しいのが現実である。
ところで、経済産業省は日本企業の人材のグローバル化を支援する方針を打ち出した。(6月15日日経朝刊) 新聞記事によれば経産省は、国際協力機構(JICA)を通じ若手社員を数百人規模でアジア新興国の企業や政府に派遣し、国際経験を積ませると同時に新興国市場を開拓することを狙いとしている。
海外派遣はJICAの青年海外協力隊の海外ボランティア制度を活用する。20~30才代の社員を1年間、ベトナム・インドネシア・バングラディッシュなどに派遣し、現地企業の経営改善の手助けや、政府のインフラ整備事業に協力する。
今のところ参加を検討している企業は、若手の能力向上だけでなく有望市場であるアジアに対する理解を深め、顧客を開拓できると考えている電機メーカー、コンビニエンスストアなどの大手企業が中心の様である。
当社にかつてJICAの青年海外協力隊に志願し、20代の4年間中米グァテマラで仕事をした40代前半のコンサルタントがいる。彼を身近で接している印象だが仕事の仕方が半端でなく、たくましさを感じる。このたくましさは青年海外協力隊で身についたと思うし、彼自身「国際感覚を身につけることができ、あの時の経験が現在に繋がっている」と語っている。
つい最近のことであるが、大手コンビニエンスストアの配送を仕事としている当社の顧問先の若手後継者が、こんなことを筆者に語ってくれた。
「得意先がベトナムへ進出するので、一緒に来てくれといわれ、現地へ行ってきた。現地のコンビニ業界の実情をみると、日本と同じ仕事をするよりも別の仕事(具体名は省略)をした方が良いと思った。ベトナム進出を協力してくれませんか」といわれた。この若手後継者は現地で自分の眼でビジネスチャンスを感じ取ったのである。
筆者は今回の経産省の日本企業の人材のグローバル化支援策は、大企業だけでなく、中堅企業も参加を検討することを勧めたい。一年間ベトナム・インドネシア・バングラディッシュなどで働くことは、派遣された本人がグローバル人材となるのみならず、海外でのビジネスチャンスをつかむことも期待できると思う。
<参考記事>
「育てグローバル人材 若手社員数百人 アジアに派遣」
2011年6月15日(水)日本経済新聞 夕刊
筆者紹介
- アタックスグループ 代表パートナー公認会計士・税理士 丸山 弘昭
- 数百社のクライアントについて「経営のドクター」として、経営・税務顧問、経営管理制度の構築・改善、経営戦略・経営計画策定、相続対策・事業承継、M&Aなどを中心としたコンサルティング業務に従事。幅広いネットワークと数多くの実績を生かし、経営者の参謀役、「社長の最良の相談相手」として活躍中。
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