税逃れにAIの税務調査官活躍!~法人の追徴税額、過去最高に

税務

AIを駆使して過去の事案を学習

国税当局が企業の税務調査で、人工知能(AI)の活用を本格化させています。

過去の申告漏れの事案などを学習させ、膨大な資料から「疑いのある法人」を割り出します。

国税庁は昨年の11月29日に、2022年度の法人税と消費税、源泉所得税の追徴税額は3,563億円で前年度比40.5%増だったと発表しました。

内訳は法人税が1,868億円(同29.9%増)、法人消費税が1,357億円(同56.2%増)、源泉所得税が338億円(同48.4%増)です。

2022事務年度(22年7月~23年6月までの1年間)は法人への追徴税額が2010事務年度以降で最高となりました。

税逃れの捕捉を図る調査の新たな武器としてAIが活用されているのです。

国税庁のデジタル・トランスフォーメーション

国税庁は、2021年6月に「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション」を公表し、その改訂版を2023年6月に公表しています。
国税庁HP:税務行政のデジタル・トランスフォーメーション

税務行政のデジタル・トランスフォーメーションは、

①納税者の利便性の向上
②課税・徴収事務の効率化・高度化等
③事業者のデジタル化推進

に基づいて施策を進める方針が示されており、税務手続の簡便化だけではなく、ミスの防止による正確性の向上や、業務の効率化に伴う生産性の向上等が期待されています。

課税・徴収事務の効率化・高度化等の面では、申告漏れの可能性が高い納税者の判定や滞納者の状況に応じた対応の判別を行うための「AI(人工知能)・データ分析の活用」が示されており、税務調査におけるAIの活用は、2021年に全国の税務署に導入されてから今、実践レベルにまで上がってきたと言えます。

効率的な調査対象先の選定をAIが行う

法人税の申告件数は、2022年の前年度比2%増の312万8千件で、申告税額は14兆9千億円、法人数も過去10年で約30万社増えています。

これまでは税務署などに所属する調査官が申告書類を分析し、対象先を選別して実地調査を行いますが、マンパワーには限界があります。

膨大な資料をいかに活用して効率的に調査対象先を選定するかが大きな課題でした。

AIを活用した調査では、まず全国の税務署などが企業の申告・決算情報公表資料などをデータベースに入力します。

続いてAIが過去の調査で得られた傾向などを機械学習し、データベースから「申告漏れの可能性が高い納税者」を選定します。

対象は法人税、消費税、源泉所得税などで、主に資本金1億円未満の企業の調査に活用します。

AIによる申告漏れリスクが高いという判定を踏まえ、実際に調査官が実地調査した上で申告漏れの指摘や追徴課税の処分につなげます。

実際に、2022年度にAIが選定した調査対象は1件あたりの平均追徴税額が547万円で、全体の386万円と比べて4割以上も増えています。

同年度の法人税の調査件数は6万2千件で新型コロナウイルス禍前の18年度に比べて約4割低い水準にもかかわらず、近年で最高の追徴税額となったのはAIの活用が一因と言えるかもしれません。

今後の税務調査の方向性

税務調査にAIが活用された場合、今後の税務調査はどのように変化するのでしょうか。

調査対象を選ぶ精度や効率が今以上に向上することは言うまでもありません。

データ分析ツールの導入によって、不正や申告誤りの可能性が高い納税者を、今まで以上に効率的に見つけることができるようになると考えられます。

例えば、海外が絡む取引や消費税の不正還付など複雑な課税逃れの手口は調査官の経験や勘が必要となるケースも少なくありません。

AI導入による選定作業の省力化で、こういった複雑な事案に対して調査官らが注力し、より人員や時間をかけられるようになると思われます。

これまでは見逃されていた不正や申告誤りが税務調査によって発見され、指摘を受ける可能性が高くなります。

また一方で、私たちの日々の経理事務、試算表や決算書の作成などについても、デジタル化の導入が推進されています。

今後は、デジタル化を前提とした「行政サービスの導入」や「税務調査の手法」がさらに拡大することが予想されます。

これらの潮流に乗り遅れないように私たちもデジタル化を積極的に検討・活用しこれまで以上にしっかりとした申告・納税対応を行うことで対峙していかないといけません。

筆者紹介

アタックス税理士法人 国際部部長 伊藤彰夫

アタックスグループ パートナー
アタックス税理士法人 代表社員 公認会計士・税理士 伊藤 彰夫
1967年生まれ。資本政策、事業承継、相続対策、M&A、国際税務の各ニーズに対応したコンサルティングに数多く従事。国際税務では、移転価格税制の対応、海外を活用したファイナンシャルプランニング、クロスボーダー交渉などの実績を誇る。現在、上場企業及び関連企業法人チームの統括責任者兼国際税務チーム責任者。
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