M&Aにおけるタグアロング条項とドラッグアロング条項とは

経営

今回は、筆者のM&Aサポートの経験から、タグアロング条項とドラッグアロング条項についてご紹介します。

M&Aにおける最終契約書には、様々な条項が盛り込まれますが、持分100%の株式を譲渡する場合については、これらの条項が付されることはありません。

これらの条項は、株主間の権利や義務を明確にし、取引を円滑に進めるために付されます。

ここからは、これら条項の目的、契約当事者間のメリット、デメリットをご説明します。

M&Aにおける最終契約書に記載される主要な条項

そもそも最終契約書において盛り込まれる条項は、

①契約の目的
②取引内容や金額等
③クロージングを実施するうえでの前提条件
④役員や従業員の処遇
⑤表明および保証の内容
⑥契約違反や表明保証違反における補償内容

など、これらは主要な条項としてほとんどのケースで契約書に記載されることになります。

M&Aの手続きでは、このような内容を当事者間で取り決めていくことになりますが、金額的な条件で折り合わないことは多々あります。

一般的に株式価値は、将来のキャッシュ・フロー(事業計画)をベースに算定されます。

あくまで将来予測のため、売り手としては、ある意味楽観的な評価となり、買い手としては、保守的な評価になってしまうことは、心情的に理解しやすいのではないでしょうか。

契約当事者間のメリットとは

ファンドが買い手となるようなM&Aの場合は、投資した金額を回収するため、企業をバリューアップさせ株式上場させたり、第三者により高く売却することで、利益を享受することを目指します。

そこで、すべての株式を譲渡するのではなく、一部の株を残す、またはすべて売却後に再出資し、買い手売り手双方が株式を保有するケースがあります。

ファンドの次のEXITで双方がキャピタルゲインを得られることが想定され、売り手が享受する対価を一部保留するといったところでしょうか。

買い手にとっては、初期投資を抑制する効果や売り手に引き続き経営に協力してもらいやすくなります。

一方、売り手にとっても、M&A時に一定のキャピタルゲインを得られ、またその後のバリューアップ次第でさらなるキャピタルゲインを得ることができるかもしれません。

WIN=WINの関係が成り立っており、双方メリットがあります。

契約当事者間のデメリットとは

一方、株式を分散して保有するケースでは、両者にとってデメリットがあります。

買い手にとっては、少数株主が存在することで、株式売却時に少数株主へ同意を求めるなどのプロセスが必要となり、同意が得られない場合は、売却金額のディスカウントにも繋がってしまいます。

また少数株主となる売り手にとっても、流動性が低く、価値が相対的に低い株式を保有すること自体がリスクといえるでしょう。

前置きが長くなりましたが、こういったデメリットを回避するために、タグアロング条項やドラッグアロング条項を盛り込むことがあります。

タグアロング条項とは

タグアロング条項とは、「共同売却」と訳され、ある株主が株式を第三者に売却する際に、他の株主にも同様に売却する権利を与えるものです。

この条項の主な目的は、少数株主を保護することです。

大株主、先ほどの場合であればファンドが有利な条件で売却する場合、少数株主も同様の条件で売却できることになり、取引の公平性が保たれ、流動性の向上が図れます。

ドラッグアロング条項とは

一方、ドラッグアロング条項とは、「強制売却」と訳され、大株主が株式を売却する際に、少数株主にも売却を強制することができるもので、大株主の権利です。

大株主が売却を決定した場合、少数株主が反対することで取引が停滞することを防ぎ、これにより、取引を円滑に進めることができます。

また、持分100%の株式譲渡として売却交渉できることから、価値を最大化することが可能となります。

タグアロング、ドラッグアロングの注意点とは


上記のとおり、株を分散保有することについて一定のリスクヘッジができるものの、デメリットがないわけではありません。

大株主側では、ドラッグアロング条項により、少数株主を強制的に売却させることができるものの、株主間の信頼関係を損なう可能性があります。

またタグアロング条項があることで、少数株主との交渉が生じ、取引に遅れる可能性もあるでしょう。

少数株主側では、ドラッグアロング条項によって、望まない場合でも売却を強制される可能性があります。

また、大株主と同じ情報量がないことから、少数株主に不利益な条件となってしまうリスクがあります。

そのため、これらの条項を盛り込んだとしても、実務的には何らかの行使条件を設定していくことも重要となるでしょう。

M&A成功のためにすべきこと

当初は、売り手、買い手双方ともに円満な関係であったとしても、M&A実施後に事業環境も変化し、どうなるかはわかりません。

こういった条項に抵触しないに越したことはないですが、リスク管理の観点からは検討しておくことが望ましいでしょう。

M&Aの最終契約書におけるタグアロング条項やドラッグアロング条項は、株主間の権利と義務を明確にし、取引の円滑化やリスク管理に寄与します。

大株主と少数株主それぞれにメリットとデメリットが存在することから、契約書の作成時には十分な検討が必要です。

これらの条項を適切に設定することで、M&A取引の成功に繋がるでしょう。

契約書の内容については、専門家と相談しながら進めることが重要です。

筆者紹介

株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 執行役員 坂井 啓宏
1999年 滋賀大学卒。中堅中小企業の業績管理制度構築や事業計画策定等のコンサルティング業務に従事。中小企業再生ファンドの運営にも携わる。現在は、デューデリジェンスや計画策定等の企業再生支援、株式公開支援、買収監査や企業価値評価等のM&A支援を中心にプロジェクトマネージャーとして活躍中。
坂井啓宏の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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