ノルマのないカーディーラー -ネッツトヨタ南国株式会社

経営

西浦道明のメルマガ 2024年8月

2014年から、当メルマガでは自社独自の「池(市場)」を見つけ出し、その池の「クジラ(圧倒的なシェア・ナンバーワン)」となった結果、高収益を獲得・維持している中堅中小企業をご紹介している。

連載120回目の今回は、高知県高知市で、新車販売、U-car(中古車)販売、中古車の買い取り、自動車の整備、点検修理ほかを行うネッツトヨタ南国株式会社 (以下、N社)の池クジラぶりを見ていきたい。

N社は、1980年4月、父親で代表取締役社長の横田憲介氏と共に、副社長として、現相談役の横田英毅氏(以下、Y氏)が、高知県内では最後発のトヨタ系自動車ディーラー「トヨタビスタ高知株式会社」を設立した。

その後、2004年にトヨタの意向により、全国のビスタ店はネッツ店へとブランド変更することとなり、N社も「ネッツトヨタ南国」に改称して現在に至っている。

以来、1999年から開始されたトヨタ系自動車ディーラー(約300社)の顧客満足度調査において、連続12回全国1位を達成するなど、お客様から高い信頼を得ている。

N社は、「社員が仕事に満足していなければ、その企業の存在価値はない」というポリシーのもと、働き方の「質」を大切に考え、社員満足第一主義を追求している。

「全社員が人生の勝利者になる」という経営理念の下、「あてのない訪問営業活動や電話セールスなどロスの多い仕事をやらされることに、スタッフは継続して能力を発揮できない」と考えた。

そして、「社員が、自発的に気づいて考え、発言し、行動し、反省して改善していく」組織を築いた。

その結果、既存の自動車ディーラーのビジネスモデルを大きく覆す、斬新な事業運営に取り組んだ。

N社の会社設立当時、ディーラーでは飛び込み営業が主流だった。

Y氏が、業務内容を知るために飛び込み営業を経験したが、訪問しても留守が多く、その徒労感をいやというほど味わった。

そして、発足後1年ほどで飛び込み営業を一切やらなくなった。

むしろ、車を買いたいお客様に、お休みの日にディーラーを訪ねてもらうようにする、来店型の販売スタイルへ転換した。

当時、ディーラーはどこも日曜休みだったが、日曜日の営業を進めた。
N社は、トヨタが日曜営業体制に踏み出すその先陣を担った。

ちなみに、N社は、現在も年末年始以外に休みはない。

そのときから、来店型の自動車販売に切り替えると同時にアフターフォローに重点を置き、「お客様に喜ばれる仕事」に全力を傾注するようになった。

Y氏は、「人柄」のいい人を採用することに徹底的に拘るようになった。

人柄のいい人とは、「自分以外の人、すなわち、お客様にも同僚にも、喜んでもらうことを歓びとする」という意識を持っている人のことだ。

こうした結果、N社には、他のディーラーにはある社員ごとの営業成績を示す棒グラフがない。

つまりはノルマがないのだ。

N社では、営業社員同士が販売台数を競い合うことに価値を置いていないのだ。

さらに、N社はカーディーラーであるにもかかわらず、ショールームに展示車が1台もない。

それは、N社には、ディーラーに来たら、さっそく車の商談というイメージをお客様へ与えたくない。

ショールームは、お客様がくつろげる空間を提供するという考えがある。

また、お客様が、必ずしも展示している車に乗りたいかどうかわからないし、どうしても展示するのは店が売りたい車になりがちなため、展示するのに意味を感じなくなったためだ。

確かにN社のショールームには展示車は1台もない。

しかし、その代わりに、車は屋外の広場や展示場に置いてあり、試乗車はネッツ店で販売する車種はオールラインナップで取り揃えている。

N社は、「社員の幸せ」を第一に追求し、仕事にやりがいを感じ、誇りと喜びを感じる社員を数多く輩出することで、結果的にお客様に心から喜んでもらおうと、社員自らが考え、発言し、行動し、反省することで、お客様から高い評価・信頼を得た。

N社は、業界常識の間逆を行く、売り上げを追わない来店型のカーディーラー(池)のクジラとなった。

  
  
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筆者紹介

西浦道明

アタックスグループ 代表パートナー
公認会計士 税理士 西浦 道明(にしうらみちあき)
1981年、株式会社アタックスを創業。中堅中小企業の経営の専門家として「社長の最良の相談相手」をモットーにしている。
東京・名古屋・大阪・静岡・仙台を拠点に、中堅中小企業の総合的なご支援に力を注ぎ、約200名のコンサルタントとともに日本に「強くて愛される会社」を一社でも多く増やすために汗をかく。
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