“キャッシュ・イズ・キング”~今後の資金戦略はこう考える!

経営

“現金は王(Cash is King)”と言う格言があります。

これは、現預金があれば、会社が潰れることも、生活が破綻することもなく、また使い道の選択肢を持てる、といった現金の重要性を説明する、ビジネス・投資・生活等すべてに共通した正鵠を射た格言です。

コロナ禍の資金調達

かつてCOVID-19の世界的な感染拡大が始まったとき、人々がマスクの購入に奔走する一方で、企業は「キャッシュ」の確保に殺到しました。

消費が急激に縮小した中、各社とも資金確保のためコストを削減すると同時に、銀行借入を加速させて手元資金の確保に急ぐなど、長期にわたる低金利政策の恩恵を受けていた日本企業にとって、改めてキャッシュの重要性を認識させられる契機となりました。

2020年1月以降、企業向けに新たに契約された各金融機関の融資枠(コミットメントライン)は、公表されているものだけでも同年12月末時点で合計13.6兆円(総額51.6兆円)に達し、年初より35.6% 増額しました。

また、債権発行時の金利を左右する格付けについては、2020年12月時点のTOPIX採用銘柄(2,172銘柄)の中でStandard & Poor’sが格付けを行っている企業81社 (時価総額換算でTOPIXの約32%)のうち、特に輸送用機器、銀行業、卸売業(商社)、陸運業など、実経済悪化や移動制限による業績影響が強い業種を中心に、22社の格付けが下方修正(上方修正は0社)されました。

上記のような企業は、資金調達コストが上昇し、以前と同じようには借入ができない状況になっています。

安定的にキャッシュを確保することが重要

短期的には、キャッシュの不足を懸念して、リスク回避的なキャッシュ保有戦略を採用した企業が多く見られましたが、今後は、デジタルトランスフォーメーションやサステナビリティトランスフォーメーションへの対応などDXを中心としたIT投資や、能登半島地震の発生や南海トラフ地震の予知など地政学的事象の発生等による突発的かつ急激な経営環境変化に対してのBCP対策の備えも必要になっています。

このような状況のもと、運転資本を最適化して安定的にキャッシュを確保することの重要性が再認識されています。

運転資本は企業における日々のオペレーションを運営するために必要な資金を意味し、貸借対照表上の売掛債権+棚卸資産(在庫)-仕入債務で計算されます。

運転資本を最適化する

運転資本最適化は、仕入のために投下された資金が売上によって回収されて、また次の仕入、もしくは、その他の用途のために投下可能になるまでの期間をなるべく短縮することによって実現されます。

不況時には、キャッシュの創出を加速し、回復のタイミングを逃さず積極的に設備投資を行うことで、そうでない企業に比べて好業績を実現できます。

キャッシュは、危機回避のために強力な武器ではあるものの、それが長期化すると、その後のリターンや成長性を犠牲にする「諸刃の剣」となりかねません。

危機終息時には、各企業はキャッシュから投資への資金還流を積極的に進めるべきだと考えます。

追加利上げが個人や法人に与える影響

日銀が2024年7月31日に追加利上げを決めたことを受けて、各金融機関では、変動型の住宅ローン金利や融資金利の指標となる短期プライムレートを次々と引き上げ始めており、2007年3月以来、17年半ぶりの引き上げとなります。

短期プライムレートは、銀行が最も信用の高い企業などに対して適用する短期間の貸出基準金利であり、この金利が引き上げられると、個人や法人が借り入れる際の金利にも直接的な影響を与えます。

以下では、短期プライムレートの引き上げが個人の住宅ローン金利や法人の借入金利にどのような影響を与えるのか、具体的な例を交えながら解説します。

個人の住宅ローンに与える影響


例えば、変動金利(適用利率0.8%)で3,500万円の住宅ローンを借入期間35年で組んでいる場合、短期プライムレートが変動し適用利率が0.95%となった場合の返済額の変化は以下の通り、毎月の返済額は約2,400円増加、年間で約29,000円の増加、35年間の総返済額は約101万円の増加となります。

現状0.8%の場合

 ・毎月返済額   :約95,500円
 ・年間返済額   :約1,146,800円
 ・総返済額(35年):約40,139,800円

0.15%上昇後の0.95%の場合

 ・毎月返済額   :約97,900円
 ・年間返済額   :約1,175,800円
 ・総返済額(35年):約41,154,100円

金融機関の多くは月々の返済額を5年間は据え置く「5年ルール」を設定や、6年目以降も月々の返済額が従来の1.25倍までしか増えない「125%ルール」の採用が多数を占めています。

5年ルールで契約している場合、当面、月々の支払い額は変わりませんが、返済内訳を見ると利払いが増え、元本が減りにくくなっています。

ローンの期間全体で見るとルールがない場合よりも支払いの総額が増える可能性があるため注意が必要です。

法人の借入金利に与える影響


例えば、変動金利(適用利率1.5%)で3億円の融資を受けている場合、短期プライムレートが変動し適用利率が1.65%となった場合の返済額の変化は以下の通り、毎月の返済額は約20,500円増加、年間で約245,000円の増加となります。

現状1.5%の場合

 ・毎月返済額   :約25,203,500円
 ・年間返済額   :約302,443,000円

0.15%上昇後の1.65%の場合

 ・毎月返済額   :約25,224,000円
 ・年間返済額   :約302,688,000円

今回は0.15%の上昇でシミュレーションしているため大したことはないと思われる方もお見えになるかもしれませんが、これが欧米の金利水準の4~5%まで上昇するといかがでしょうか。

2024年度版中小企業白書を見ると2023年は、年末にかけて売上げの好転に一服感が見られたものの、中小企業の業況判断DIは高水準で推移し、経済の状況が全体として改善する基調が継続したとあります。

その反面、経営課題の推移を見ると、売上不振のほか、原材料高騰や求人難に直面していることが見て取れます。

クライアント先の多くでも内容は様々ですがこれらの経営課題に直面しています。

本当にキャッシュ・イズ・キングなのか?

ここでタイトルに戻ります。皆さんは「キャッシュ・イズ・キング」だと思いますか。

答えはYESだと考えます。

経営課題の多くはキャッシュで解決できます。
逆にキャッシュがなければモノやヒトへの投資も何もできません。
事業承継や相続でもキャッシュが必要となることが多いです。

昨今の為替動向、日米金利差や物価上昇率差を見ると日本円は現状保有しているだけでは減価しています。

それでも円預金は必要です。
当たり前のことですが安く仕入れて高く売るが商売の鉄則です。
そしてそれは自利利他でなければなりませんし、できるだけ効率よく短期で回収することが重要です。

最後に

全ての物事と数字には必ず原因と結果があります。
それらを経営者と議論し、課題を抽出し、解決・改善することにより多くの利益やキャッシュを生む強い会社にすること。

そして忘れてはいけないのが自利利他の精神であり、従業員や仕入先、得意先にも愛される会社となることです。

1社でも多くの強くて愛される会社を生み出すお手伝いをすることが我々の使命だと考えています。

アタックス税理士法人は、「社長の最良の相談相手」として、税務顧問を通じて、自社の経営課題の把握をお手伝いしています。

ぜひご相談ください。

筆者紹介

アタックス税理士法人社員 税理士 川本 洋平
2011年アタックス入社。現在は、中堅中小企業の税務業務のほか、組織再編、資本政策、相続対策など法人及び個人の様々な支援業務に従事している。顧客の抱える課題に対して顧客目線で親身に対応するコンサルタントとして信頼を得ている。
川本 洋平の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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