日本の中小企業の生産性向上がまったなしとなっています。
2024年の中小企業白書によれば、日本の労働生産性(GDP÷就業者数)は米国の約半分と主要なOECD加盟国の中でも低く、さらに日本の企業規模別の労働生産性(純付加価値÷従業者数)では、中規模企業は大企業の約半分、小規模事業者では大企業の約3分の1となっているようです。
中小企業永続のために重要なプロセスとは
ここで興味深いのは、1990年から大企業と中小企業で経営指標の推移をみると、売上原価率は大企業・中小企業ともに低減(改善)しているのに対し、労働分配率では大企業が低減(改善)、中小企業はほぼ横ばいとなっており、この結果、大企業の営業利益率は上昇、中小企業は横ばいとなっていることです。
つまり、中小企業の生産性向上には労働分配率等の人的効率を上昇させる必要があるのです。
しかし、日本では人手不足が顕著であり、春闘の値上げ率や最低賃金の改定率は過去最高水準にあることから、労働分配率の分子である人件費は必然的に上昇することが見込まれます。
現に、中小企業で賃上げの実施を予定している会社は60%強、そのうち約37%は業績の改善がみられないが賃上げを実施せざるをえない状況となっているようです。
中小企業が永続するためには、人財を確保し、適正に賃上げを実施しながら労働分配率を改善しなければなりません。
つまり付加価値を重視して、これを高めるような取り組みを行うことが必要なのです。
付加価値を成長させる方法
付加価値を成長させるためには、これまでと違う分野で新しい付加価値を稼ぐ、今の分野で付加価値を高めることが考えられます。
これまでと違う分野で新しい付加価値を稼ぐには、ビジネスモデルの変革が必要であり、一朝一夕ではなしえず、きちんとした中期経営計画に基づく経営戦略が必要となります。
一方、今の分野で付加価値を高めようとする場合、そのポイントは数量の増加と価格の値上げとなり、特に後者の価格の値上げについては、国策的に適切な価格交渉を後押ししています。
原価構成を把握して価格転嫁しているか
この適切な価格交渉を行うのに重要となってくるのが原価計算制度です。
現に、中小企業白書では原価構成を把握して価格転嫁交渉をした場合、価格転嫁が一部以上反映されたと回答したのは全体の80%強と、原価構成を把握しない場合の同比率(60%強)とかなりの差があると報じています。
また、原価構成毎の価格転嫁の度合いは、原材料費で45%程度、労務費で37%程度、エネルギー費では34%程度と、原価構成毎に価格転嫁度合いに差があるようです。
原価計算の考え方として、原材料費は直接変動費なので価格との対応関係が分かりやすいのですが、労務費やエネルギーコストは固定費的要素に加え直接費と間接費も入り混じるため、それをどう原価に反映させるかは一工夫必要となります。
このあたりが労務費やエネルギー費の価格転嫁度合いが低い要因となっているのかもしれません。
自社の原価計算制度を構築して適正な価格交渉を
クライアントから、見積書ベースでは全製品儲かっているはずなのに、実際、決算がでてくると儲かっていない、と聞くことがあり、私たちが調査をすることがあります。
その場合はこういった固定的費用の見込み違いや、回収しなければならない固定費がもれていたりして、それが利益のでない原因であったりします。
これは、見積りは営業チームが、管理会計は経理チームが担っており、そこのコミュニケーションが悪かったりすると特に陥りやすいようです。
取引先に提出する見積書の原価構成と管理会計上の原価計算制度との統一感や連携は、全てのコストが値上がりする中で適正な付加価値を確保するという視点で、重要になってきているといえます。
素材や原料、エネルギーコストに加えて人件費も高騰することが見込まれる経営環境の中、自社の原価計算制度をしっかりと構築して、その原価計算をベースに取引先に対して適正な付加価値が確保できるような交渉を行うことが、中小企業にとって付加価値を高める経営手法のひとつとなるのではないでしょうか。
株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティングは、中小企業の経営改善に関する様々なお悩みに対し、現状分析から課題解決のためのご支援を行っています。
筆者紹介
- 株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 代表取締役社長
中小企業診断士 池ヶ谷 穣次 - 1993年 静岡県立大学卒。MBA。中堅中小企業の経営管理制度・管理会計制度構築サポート、事業再生サポート、財務・事業デューデリジェンス業務、M&Aサポート、株式公開支援、月次決算支援業務等に従事。システムエンジニア時代に得たシステム思考を応用し、経営者・経理責任者の参謀役として活躍中。
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