オーナーが悩む自社株承継~株価計算と対策の基礎知識

事業承継

私は、事業承継が円滑に進められるよう、自社株対策のご支援を行っています。
今回は最近の相続税の申告状況と、事業承継の現状、自社株評価の仕組みについてご紹介します。

相続税法改正による課税割合の増加

国税庁発表の「相続税の申告事績の概要」によれば、2022年中に亡くなられた方(被相続人数)は約157万人で、年々増えています。

▶参考:令和4年分 相続税の申告事績の概要(国税庁HP)

このうち、相続税の申告対象となった被相続人数は約15万人で、課税割合は9.6%と、10人に1人が相続税を課されています。

課税割合は、2014年の4%台前半から増えています。

これは、相続税法が改正され、基礎控除が改正前の60%(3,000万円+相続人の数×600万円)に引き下げられたことによるものです。

基礎控除が減額されたため、課税額が増えたのです。

相続財産の金額の構成比は、現金・預貯金等34.9%、土地32.3%、有価証券16.3%の順となっています。

非上場会社の自社株は有価証券に含まれます。

有価証券の金額が増えてきたことからも、自社株対策の要望が増えてきています。

事業承継の現況

次に事業承継の現状についてですが、中小企業庁公表の中小企業白書2024年版の第1部第3章には、「事業承継の現況」について記載がされています。

▶参考:中小企業白書2024年第1部第3章(中小企業庁HP)

経営者年齢のピーク(最も多い層)分布は、2015年が「65~69歳」と最も高かった一方、2023年は「55~59歳」が最も高かったことから、事業承継がある程度進んでいることが分かります。

一方で、経営者年齢が70歳以上である企業の割合は2000年以降最高となっていることから、事業承継が進んでいない企業も多く存在しています。

次に事業承継の際に問題になりそうなことについては後継者の経営能力28.0%、相続税・贈与税の問題22.9%、後継者による株式・事業用資産の買い取り22.5%と続いています。

相続・贈与・買い取りを含めた株式の承継コストに対し実に45.4%の方が不安を感じていることが分かります。

非上場会社の自社株評価の仕組み

そこで、次は非上場会社の自社株評価の仕組みについて簡単にご説明をします。

今回は、親から子に相続又は贈与する場合の自社株評価の仕組みを考えます。

まずは業種に応じて会社の規模を「大会社」「中会社」「小会社」のいずれに該当するかを検討します。

この判定基準は、「従業員の数」「総資産価額」「売上金額」です。

例えば「大会社」に該当するには、業種に関係なく従業員数が70人以上であれば該当します。

また従業員数が70人未満であっても「大会社」に該当するケースはあります。

例えば卸売業であれば、売上金額が30億円以上又は総資産価額が20億円以上(従業員数が35人以下の会社を除く)であれば該当します。

この会社の区分によって、自社株の評価方法が異なります。

評価方法としては「類似業種比準価額」「純資産価額」があります。

一般的には「類似業種比準価額」のほうが「純資産価額」より評価額は低くなり、これを前提にすると、各会社区分に適用される評価方法は次のとおりです。

大会社

類似業種比準価額

中会社

「類似業種比準価額」×0.6~0.9+「純資産価額」×0.4~0.1

小会社

「類似業種比準価額」×0.5+「純資産価額」×0.5

会社の規模が大きくなるほど評価額が低い「類似業種比準価額」を使う比率が増えることになります。

以上が簡単な非上場会社の自社株評価の算定方法ですので、まずは自社株評価を行い、現時点の承継コストを把握してください。

承継コストを把握したのち、納税資金や財産分割を検討し株価対策が必要かどうかを判断していきます。

一般的な株価対策

ここで株価対策の一般的な方法をご紹介します。

1.利益を少なくする

「類似業種比準価額」の要素には利益があります。

利益が少なくなれば、株価算定要素の利益が少なくなることとなり、結果として株価も下がります。

例えば、現経営者から後継者へバトンタッチする際には退職金を支給するのが一般的です。

退職金を支給し、利益を下げれば株価も下がり、移転コストが少なくなるわけです。

2.会社の区分をあげる

上述のように、「大会社」であれば一般的には「純資産価額」より低い「類似業種比準価額」を利用でき、株価が引き下がる可能性があります。

このため、会社の規模を上げるため、合併等の組織再編を検討されるケースも少なくありません。

もちろん、組織再編の目的が株価を引き下げるためだけでなく、事業遂行上必要かどうかもきちんと検討する必要があります。

最後に

一般的な株価対策の一部をご紹介しましたが、実際には対象会社ごとの状況に応じて検討します。

また、株価対策は事業承継の一部であることをご理解いただいた上で、自社が永続的に継続できるよう早め早めに事業承継をご検討いただければ幸いです。

アタックスグループでは、相続対策などの事業承継に関する様々なお悩みに対し、課題整理から解決のためのご支援を行っています。

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筆者紹介

アタックス税理士法人 社員 税理士 武田 太一
アタックスグループ入社以来、税務部門において中堅・中小企業から上場会社の法人業務、オーナー経営者の資産税業務に従事。 最新税務を常にアップデートしながら、相手の立場・状況を考慮した親身な対応により、多くのクライアントやオーナー経営者と信頼関係を構築している。
武田太一の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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