スーパーまるおか~世のため人のためになる食品スーパー

坂本光司の快進撃企業レポート 経営

「経済センサス」(2021年)によれば、わが国小売商店数は、88万店、その販売額は138兆円である。

ちなみに、30年前の1991年統計を見ると、小売店数は159万店舗、その販売額は141兆円である。

つまり、この30年間で、販売額こそ微減であるが、小売商店数は半減化してしまったのである。

小売商店はもとより、多くの関係者は、その衰退要因について、小売商店の経営者の高齢化や後継者不足、社員の離職の増大や新規入職不足による廃業の多発、さらには、全国チェーンの巨大なショッピングモール等の出店、加えて言えば、少子高齢化に伴う商圏人口の大幅な減少等と捉えている。
 
しかしながら、筆者は、そうした要因も決して否定はしないが、それらが最大の要因とは思わない。

というのは、全国各地を歩いてみると、同じような条件下であるにもかかわらず、地域内外の生活者の高い支持を受け、この間、隆々と成長発展している小売商店も多々あるからである。

今回取り上げる群馬県高崎市の「スーパーまるおか」もその1社である。店舗は、JR高崎駅から車で20分ほど走った裏通りで、道路を挟んだ隣には、巨大なショッピングモールがあり、よく気を付けて走らないと通り過ぎてしまうほどである。

店舗面積は僅か145坪、多店舗展開をせず、1店舗主義であるが、この小さなスーパーに、まるでファンのような顧客が、東京圏はもとより、遠くは新潟県や長野県からも日常的にやってくるのである。

そればかりか、客単価は業界平均の2倍以上、なかには1回の買い物で2万円以上の顧客もあるという。

同店では、多くのスーパーマーケットで毎週のように実施している、新聞折り込みチラシ広告を行わないばかりか、客寄せのための特売日もほとんど実施していない。

加えて言えば、同店の定休日は、最も客数・客単価とも多くなる日曜日なのである。もとよりこれは、同店の中核社員は家庭の主婦が大半であり、大切な日曜日は家族と共に過ごして欲しいという配慮である。

一般的な小売商店とは、真逆の経営にもかかわらず、「スーパーまるおか」は、顧客と社員の双方から絶大な支持を受け、右肩上がりにその業績を伸ばしているのである。

その秘訣は、なんといっても、同店が仕入販売している商品に魅力があるからである。

ちなみに、同店で扱っている商品アイテムは、約6000アイテムであるが、そのなかには、全国どこのスーパーマーケットでも売られている、いわゆる「NB商品」はほとんどなく「PB商品」や「SB商品」が実質100%という稀有なお店である。

販売されている商品は、当店の丸岡会長や社長をはじめとした全スタッフが「当店のお客様にこそ食べて欲しい…。そして健康になって欲しい…」という思いで、厳選した全国各地域の逸品・掘り出し物ばかりである。

明るい店舗の中に入ると、壁には「食は命、食べるものは安さや便利さだけで選ばない…、命をつなぐ大事なもの」「テレビCMにダマされないでください…。自分の舌と頭で判断」等と筆書きされた大きな張り紙が目に付く。

「大手メーカーがつくる商品は、総じて低価格を意識するあまり、原価を圧迫するきらいが強く、農業者や漁業者、そして食品製造業者、さらには物流業者等の苦労を無視していると思わざるを得ないような値決めです」

「そんなことをしていたら、生産者や物流業者が疲弊し、廃業していくのは当然です。ですから当店では、産地をはじめとした仕入先からの商品を、一切値引きをしません」

「また全てではありませんが、NB商品の多くは、大量生産品であるが故、効率を重視するあまり、味は重視するものの、農薬漬けの農産品や、防腐剤や添加物・着色料を使った食品など、食の安全・安心に注力する側面が弱い傾向があります。

ですから、当店では、全国各地で、少量しか生産されない商品で、多少価格が高くても、本物で、おいしくて、安全・安心、健康な商品を、アンテナを高くして発掘し、『本物の食』に理解があるお客様を育てたいのです」と、丸岡社長は話す。

こうした経営は、創業当初からではなく、当初はどこにでもある街の小さな食品スーパーであった。

しかしながら、丸岡社長(現会長)自身が大病を経験し、「安全・安心な、真に身体に良い食を仕入れ・販売しよう」と、現在のような経営スタイルに変革したのである。

とはいえ、こうした経営が顧客に理解されるまで、長時間を要した。

しかしながら、丸岡会長らは、めげず努力を続け、その存在がゆっくりではあるが、着実に顧客に浸透していき、今では顧客というよりは「ファン」のような顧客が、全国各地から集まってくる小売商店に見事に変化・変貌したのである。

先日、社会人学生10数名と当店を訪問し、丸岡会長から店舗運営の基本的な考え方を聞いた後、店舗の中を歩いた。明るい店舗の棚には、他のスーパーでは見たこともないような逸品が、所狭しと並んでいた。

参加者全員が少なからず買い物をしたが、そのなかの一人、札幌市に実家のある社会人学生は、「家族に食べて欲しいから…」と、あれもこれもと買い捲り、レジで支払った金額は優に万を超えていた。

「お天道様に顔向けのできる経営」「世のため・人のためになる経営」とは、まさにこうした企業・経営のことである。

アタックスグループでは、1社でも多くの「強くて愛される会社」を増やすことを目指し、毎月、優良企業の視察ツアーを開催しています。
視察ツアーの詳細は、こちらをご覧ください。

坂本光司の快進撃企業レポート一覧へ

筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

タイトルとURLをコピーしました