株式会社共同~社員第一主義で頑張る浜松のビルメンテナンス業

坂本光司の快進撃企業レポート 経営

浜松市に、株式会社共同という社名の企業があります。

主事業は、ビルの屋内外のメンテナンスや清掃業務等です。この他、グループ企業として、マンション管理を行う株式会社リアル、警備保障を行う株式会社エヴァーブルーがあり、全体での社員数は500名以上になります。

その事業エリアも、もともとは浜松市内が中心でしたが、その後、顧客の要望が強く、今や静岡県全域や愛知県の東部までに拡大しています。

同社の創業は47年前の1978年、現会長である青木律氏の父親が、数名のスタッフを確保しスタートしています。

創業者は、公務員を定年退職した後、あるビルメンテナンス会社に請われ、その企業の浜松支店長として再就職しました。

公務員時代に培った人脈や良い人柄であることもあり、あれよあれよという間に、本社をしのぐような業績を実現していったのです。

支店の成長発展とは裏腹に、次第に上下下達型の経営を行う本社との経営方針を巡る軋轢が生じていき、結果として独立をしたのです。

その折、前職当時の体験を踏まえ、企業経営の「やり方」ではなく「あり方」「目的」そのものである「経営理念」の策定の必要性を感じ、皆で相談し策定しました。

「夢を共に、志を同じに…」です。社員と共同し、夢と希望のある企業を創ろう…、という意味を込めました。これが同社の「共同」という社名の由来でもあります。

そして、この47年間、この理念に基づき、社員や協力業者に過度な負担をかけるような経営、とりわけ、急成長や急拡大経営、景気や流行を追いかけるような経営を避け、地道に安定した年輪経営を行ってきたのです。

結果としてこの47年間、その業績はゆっくりですが着実に右肩上がりで増加し、この間の希望退職者の募集なども一切やりませんでした。

同社が、この47年間ぶれず実施してきた経営学は、正に高らかに掲げた経営理念通り「誰をも犠牲にしない五方良し経営」でした。その中でも、とりわけ重視したのが、社員の働きがいや幸せ、さらにはモチベーションアップの経営でした。

そのことがより充実強化されてきたのは、現社長である有賀氏が3代目経営者になってからです。有賀氏は、創業者や2代目社長の親族ではありません。浜松市の高校生の頃、たまたま同社で清掃等のアルバイトをしていていたのです。

陰ひなたなく仕事に取り組む姿勢や、高齢社員に寄り添う姿勢が経営者の目に留まり、新卒社員としての入社を嘆願されたのでした。

また有賀氏も、共同の社名に込められた経営者の強い思いに共感・共鳴し、はじめての新卒の新入社員として入社したのでした。

そして、現場の清掃業務はもとよりあらゆる業務を経験し、今から20年前の2005年、40歳の時、共同の3代目社長として前社長から請われ就任したのです。

有賀氏は、自身が現場からのたたき上げということもあり、この間、一人ひとりの社員に寄り添いながら、働きがいやモチベーションが高まると思われる様々な対策を講じていきました。

とりわけ重視したのが、男性重視の企業から女性や高齢者重視の経営、さらには、新規顧客開拓よりも既存客重視の経営や社会貢献・地域貢献の経営でした。

女性社員でいえば、社長就任当時、女性社員比率が80%以上でありながら、管理職女性比率は数%に過ぎなかったので、意識して育て、増加させ、今や管理職の50%は女性です。

そればかりか、数通りしかなかった働き方も、1日2時間や1日おきといった働き方といった子育て中や介護中の女性社員の働きやすい勤務形態を多数用意したのです。

こうしたこともあり、男性管理職にはいいにくい様々な問題が吸い上げられ、風通しの良い企業に変化変貌していったばかりか、定着率は飛躍的に向上していきました。

また、高齢者雇用でいえば定年制やその後の1年更新といった雇用制度を、全社員を無期雇用社員とし、本人が辞めたいといった申し出がない限り、何歳までも働くことができるようにしたのです。

この結果、現在では70歳を過ぎても働く社員も多く、現在の最高年齢社員は85歳だそうです。

さらには、営業社員に過度の負担を課す傾向の強い新規顧客ではなく、既存客重視の経営にシフトした結果、他社との見積競争に一喜一憂することなく、サービスや品質を高めることに時間を割くことができ、人柄の良い社員の育成にもつながったばかりか、1社あたりの客単価は大きく上昇していったのです。

当然のことながら、そのリピート率も年々上昇していき、現在のリピータ率は、同業他社の平均の50%から60%を大きく上回る90%以上といいます。

有賀社長さんが、一人ひとりの社員に寄りそう経営で、とりわけ注力しているのは「プレイブライン」というホットラインです。

これは「社員を孤独・孤立にさせない…」をモットーに、社員一人ひとりが仕事や家庭、あるいは人間関係等で悩んだり困っている時、その都度相談できるラインです。

連絡の受け手は、社長とごく限られた担当者で、現場では、あるいは現場の上司には言いにくいことを、極秘で受け付け、相談者のモチベーションアップと職場の改善に役立てているのです。

時間外や休日は、社長が全て直接対応しているのです。このホットラインにより、これまで幾度となく社員の離職を防いだといいます。

この他、同社では「社員を守る」という経営を貫いており、派遣先企業での理不尽な言動があった場合には、取引を辞めるといいます。数年前、地元の大手企業との取引も、そうした理由で同社からお断りをしたといいます。

こうした社員想いの経営により、社員の所属愛はもとより、働きがいも高く、その結果、同業他社の平均離職率は15%前後であるのに対し、同社ではなんと0.5%程度です。

紙面に余裕がなくなってしまいましたが、同社の地域貢献や社会貢献活動も見事です。

例えば、障がい者の雇用率も4.7%と高いだけでなく、地域の特殊学校の学生さんたちが将来の活路が見いだせるように、毎年インターシップとして受け入れ、就業体験の機会を提供しているのです。

こうした「五方良しの経営」が高く評価され「第9回日本でいちばん大切にしたい会社大賞」の厚生労働大臣賞も授与されたのです。

アタックスグループでは、1社でも多くの「強くて愛される会社」を増やすことを目指し、毎月、優良企業の視察ツアーを開催しています。
視察ツアーの詳細は、こちらをご覧ください。

【無料】経営に役立つ資料はこちら

筆者紹介

坂本光司

アタックスグループ 顧問
経営学者・元法政大学大学院教授・人を大切にする経営学会会長  坂本 光司(さかもとこうじ)
1947年 静岡県生まれ。静岡文化芸術大学文化政策学部・同大学院教授、法政大学大学院政策創造研究科教授、法政大学大学院静岡サテライトキャンパス長等を歴任。ほかに、「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員長等、国・県・市町村の公務も多数務める。専門は、中小企業経営論、地域経済論、地域産業論。これまでに8,000社以上の企業等を訪問し、調査・アドバイスを行う。

タイトルとURLをコピーしました