上場企業の自己資本利益率(ROE=Return On Equity)が、2010年3月期の3.9%から2011年3月期は、6.0%に上昇、との記事が新聞に載った。すなわち、株主(投資家)からすれば、自分の投資に対するリターンが高くなったことを意味する。
自己資本利益率は、純利益を自己資本で割ったものである。純利益とは、企業が、一年間企業活動を行った最終的な利益であり、株主からすれば配当(リターン)の原資となるべきものである。
また、自己資本とは、簡単に言えば株主として会社に投資した金額と過去の利益の蓄積の合計といえる。過去の利益の蓄積は、株主として当然回収すべきものであるが、将来への投資等も考え企業内に留保した資金ということもできる。別な見方をすれば、自己資本とは「株主の持ち物」また「株主の企業に対する投資留保分」である。
株主の目的は、当然、投資をしてリターンを得ることである。このリターンとは、株価の値上がり益や配当である。株主は当然、当該企業よりも他企業の方が、配当が高いのであれば、当該企業より自分の持分である資金を回収し、配当が高い企業へ再投資をしたくなるのである。したがって、上場企業の経営者は、自社の魅力をアピールするためにも、このROEを意識せざるを得ない。
この議論は、単に上場企業にのみ関連したことではない。未公開のオーナー企業でも十分考慮すべきことである。未公開企業といえども、オーナー家は、自分の会社に株主として投資している。株主である以上、このROEが高い方が良いに決まっている。
7月2日の日経新聞によると、投資として比較的安全と思われる日本の新発10年国債の利回りは、1.14%であった。もし、貴社のROEが1%であったとすると、経済合理的には株主として投下している資金をすべて回収し(すなわち、会社を清算し)、すべて国債購入にあてれば、かなりの高い確率で0.14%だけ得をすることになる。
算術的に会社経営の良し悪しを語るつもりはない。しかしながら、これから右肩下がりの経済下での会社経営には、これまで以上にシビアな資金効率が求められるのは事実である。
<参考記事>
「企業経営の効率 回復基調」
2011年7月3日(日)日本経済新聞 朝刊
筆者紹介
- アタックスグループ 代表パートナー 公認会計士・税理士 林 公一
- 1987年 横浜市立大学卒。KPMG NewYork、KPMG Corporate Finance株式会社を経て、アタックスに参画。KPMG勤務時代には、年間20社程度の日系米国子会社の監査を担当、また、数多くの事業評価、株式公開業務、M&A業務に携わる。現在は、過去の経験を活かしながら、中堅中小企業のよき相談相手として、事業承継や後継者・幹部社員育成のサポートに注力。
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