今日は、最近、セミナーでお話することを少し文章にまとめてみたいと思います。
ここ数年、決算書の見方や財務分析を含む決算書の活用方法に関するセミナーを受け持っています。このセミナー講師をやればやるほど決算書というもののすごさを感じます。
ある社長と話をしていたときです。「決算書なんて、所詮過去のものであり、過去をいくら分析しても何も意味がない。やっぱり、せいぜい税務申告書を作成するために必要な書類かな?」といわれたことがあります。本当にそうでしょうか?
私は、こういう会社は、残念ながら計画→実行→検証という経営の王道プロセスができていないのではと思ってしまいます。
なぜならば、企業行動と決算書は表裏一体の関係にあるからです。このコラムでは収まりきれませんので、ここでは詳細な説明はできませんが、例えば、売掛金を例にとって考えてみましょう。
ある会社の売掛金の入金条件が、月末締めの翌月末払いと仮定します。これが意味することを良く考えてみてください。月末には必ずほぼ30日分に相当する売掛金が残るということです。
もし、このような入金条件であれば、決算書にある売上金を365日で割れば、一日あたりの売上金が計算できます。この一日あたりの売上金で、決算書上の売掛金残高をわれば、30日前後の数字になるはずです。もし、この一日あたり売上金で除した数字が、120日になれば、明らかに企業の実態とかけ離れています。
この差の原因を調べると、おそらく売掛金の長期滞留や架空売上等が発見される可能性が非常に高くなります。このように、決算書を見ると、当初の予定どおりの企業運営ができているか、を検証することができるのです。
さらに、将来的にはこの回収率をどのようにするかという議論もできます。「今は、顧客との関係で直に入金期間を変更することはできないが、3年後には○○日にしよう。そのため実行すべきことは、・・・・・。」と将来志向型に決算書を活用していくことができます。
これはちょっとした一例です。企業実態を見ながら決算書を分析すると、我々に経営上、非常に重要な情報をもたらしてくれます。だからこそ、あの京セラ創業者の稲盛氏もその著書である「実学」の中で、会計データがなければ経営などできるはずないと言い切られているのです。
このような重要な情報が作成できて、企業としてどうあるべきかという提案をしやすい部門が、経理部門です。
中堅中小企業においても、単純に仕訳を積み上げ、決算書を作成するという作業に没頭するのではなく、決算書を活用して会社のあるべき姿を提案することが、経理部門が企業の戦略部門として機能していくことの第一歩だ、と強く思う今日この頃です。
筆者紹介
- アタックスグループ 代表パートナー 公認会計士・税理士 林 公一
- 1987年 横浜市立大学卒。KPMG NewYork、KPMG Corporate Finance株式会社を経て、アタックスに参画。KPMG勤務時代には、年間20社程度の日系米国子会社の監査を担当、また、数多くの事業評価、株式公開業務、M&A業務に携わる。現在は、過去の経験を活かしながら、中堅中小企業のよき相談相手として、事業承継や後継者・幹部社員育成のサポートに注力。
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