三井住友銀行、住友商事、住友信託銀行の住友系3社が国内中堅・中小企業に投資する300億円規模のファンドを立ち上げる(2010年12月16日付日経朝刊)。
記事によると、このファンドは目先の業績は伸び悩むものの潜在的競争力のある企業を発掘し、収益力の向上を目指して出資する。出資は経営権の取得を前提としているので、出資会社へは経営人材も同時に送り込む(ハンズ・オン型出資)と思われる。
三井住友銀行はすでに昨年中頃、三菱東京UFJ銀行などと経営再建・企業再生型のファンドを立ち上げているが、今回のファンドは投資先の競争力強化・収益力向上を目的とした成長促進型と位置づけている。中堅・中小オーナー会社をクライアントとしている当社の現場感覚からすると、青い目のハゲタカファンドと一線を画する今回のようなファンドは企業の海外進出・事業承継などの局面で有効ではないかと考える。
今、国内市場は人口減少という長期トレンドに入り縮小している。中堅企業は縮小する国内市場を相手にしていてはお先真っ暗であり、アジアを中心とした新興国へ進出することで今後の成長・繁栄をつかみとるしかない。
この時、経営上のネックとなるのが資金と人材である。上場会社と未上場オーナー会社の経営資源で一番違いを感じるのは人材の差である。元気のよいオーナー会社の社長は間違いなく優秀である。しかし多くの場合、経営幹部の人材は不足している。
特に海外に進出する時に問題となるのが海外で活躍できる人材を育てていないことである。今回の住友系3社による成長促進型ファンドのような存在が資金面以外でこのような人材ニーズに組織的に応えてくれるのであれば、ファンドからの出資を受け入れたいと思うオーナー経営者もいるのではないだろうか。
他方、事業承継で悩んでいるオーナー経営者も多い。できることなら血の繋がった子供に承継してもらいたいが継いでくれそうな人物が誰もいない。そもそも子供がいないケースも多い。
こんな状況の時、オーナー経営者が考えるのは自分が精魂込めて築き上げてきた事業を存続させたい、社員の雇用を守りたい、そしてできればリタイア後の人生を安心して暮らすため、次にやりたいことのために某かの創業者利益を得たいということである。今回のファンドはMBO(経営陣が参加する買収)を前提とした投資も行うようであり、社内で育ってきた経営幹部を中心に新たな成長ステージに入ることも期待できる。
事業経営はゴールのない駅伝レースである。時代の変化を乗り切るためには絶えず経営革新を行わなければならない。特に経済がグローバル化した現在は変化のスピードが早く、競争もグローバルである。どんな優秀な経営者も年齢には勝てない。
自前主義での経営では限界がある、なんとしても事業を永続させたいと考える経営者は、競争力強化・収益力向上型の成長促進型ファンドの活用を検討してみてはと思う。
<参考記事>
「中小向け300億円ファンド」2010年12月16日(木)日本経済新聞 朝刊
筆者紹介
- アタックスグループ 代表パートナー公認会計士・税理士 丸山 弘昭
- 数百社のクライアントについて「経営のドクター」として、経営・税務顧問、経営管理制度の構築・改善、経営戦略・経営計画策定、相続対策・事業承継、M&Aなどを中心としたコンサルティング業務に従事。幅広いネットワークと数多くの実績を生かし、経営者の参謀役、「社長の最良の相談相手」として活躍中。
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