投資の意思決定に会社をつぶさないという視点を

会計

設備投資の現状とは

2019年6月19日の日経新聞に、日本の上場企業の2018年度の設備投資やM&Aなどの投資額が約52兆円と過去最高だったという記事がありました。

筆者にも昨年から今年の初めにかけて設備投資にかかる事業計画策定の相談や策定のサポートの依頼が多々ありました。

これまでの比較的堅調な景気を踏まえ、積極的な投資を実施する企業が多かったと思います。しかし、現在は米中貿易摩擦等から景気の先行きの不透明感が非常に高まっています。

一般的に、機械受注は代表的な景気の先行指標と言われています。

私が関与している工作機械メーカーの今期の売上予測は、前期比で4割ほどの減少を見込んでおり、先行きが不透明ななか、急激に設備投資を控えようとしています。

米中貿易摩擦の行方等によって変わってくると思いますが、足元で急激に景気が悪化するリスクがあると考えられます。

投資をした時点ですぐに需要が想定を下回り、調達した設備資金の返済に窮するという状況がこないか危惧しているところです。

失敗が招く最悪の結末

筆者が設備投資についての計画を経営者の方に伺うと、どれだけ今回の投資が必要なのか、どれだけ売上が増えて投資回収が可能なのかといった話は聞くことができます。

しかし、最悪投資が失敗しても会社がつぶれることはないという検討をされている方はほとんどいらっしゃいません。

そこで、筆者はよく、会社の純資産額を超える大きな設備投資をしようと考えている経営者の方々に、
「社長、仮にこの投資が失敗した場合債務超過になり会社の存続が危ぶまれる状況になりますがそれでもこの投資を実施しますか」
と確認するようにしています。

皆さんもご承知のとおり、貸借対照表における純資産とは資産と負債の差額です。

資産とは今後現金で回収が見込める金額であり、負債とは今後現金を支払う金額です。そして、資産よりも負債が上回る状態を債務超過と言います。

要は、将来回収されるお金よりも支払うお金が多いということであり、どこかから資金を調達しないと約束した支払ができず会社が存続できなくなる可能性がでてくるという状態です。

そうであれば、金融機関から借入をすればいいと考えられる方もいらっしゃると思います。

ただし、金融機関は一般的に、

1.資産超過であること(債務超過でないこと)
2.債務償還年数(借入金を単年度のキャッシュ・フロー創出額で除した値)
  が10年以内であること

という二点を正常な貸出先として判断するポイントとしています。

そのため、債務超過の場合は金融機関からの借入のハードルが非常に高くなります。

会社を潰さないための判断基準とは?

もし、投資額が純資産の範囲内であれば、仮に投資に失敗したとしても既存の負債の支払いに窮することはないでしょう。

しかし、投資額が純資産の範囲を超えるということは、仮にこの投資に失敗をしたら一気に会社の存続が危ぶまれる状態になるということを意味しています。

筆者は日頃、企業再生のサポートをさせていただいている中で、経営責任を問われ、役員報酬を大きく減らさざるを得ない経営者や、会社を退かなければならなくなった経営者、個人の資産を処分して借入金の返済に充当せざるを得ない経営者等色々な事例をみてきました。

会社は売上を上げることも当然大事ですが、なるべくリスクを減らして、企業の永続性を高めることも大事です。

そのため、自社の純資産額を超える投資を借入金で賄うことを検討されている場合は、投資額をもう少し抑えられないか、または、一定程度返済義務のない増資資金で賄うか、などについて検討していただきたいと思います。

会社を窮地に陥れないという視点も加えて設備投資の意思決定をしていただくことが肝要です。

大きな設備投資を実施する場合には、しっかりとした事業計画を策定することをお勧めします。
 

筆者紹介

株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 執行役員 中小企業診断士 伊原 和也
1996年 武蔵大学卒。大手ノンバンクを経てアタックス入社。中堅中小企業を中心に企業再生支援、M&A支援、中期経営計画策定支援および株式公開支援等を中心にプロジェクトマネージャーとして活躍中。
伊原和也の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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