令和2年7月から「遺言書保管制度」がスタートします。
平成30年7月に相続法(民法における相続に関する規定)について約40年ぶりの大改正が行われました。
「配偶者居住権の創設」や「自筆証書遺言の方式の緩和」などが主な改正項目で、順次施行されてきています。
この「遺言書保管制度」もその1つで、令和2年7月10日から施行されます。
遺言書の作成方法
遺言書の作成方法には、主に公正証書遺言と自筆証書遺言があります。
公正証書遺言は、公証役場で公証人からアドバイスを受けながら作成します。
費用はかかりますが、作成後は公証役場で保管してもらえますので、紛失や改ざんというリスクがなく安全な方法です。
遺言書の法的なチェックも行いますので、引き続き非常に有効な手段であることは間違いありません。
自筆証書遺言は、費用はほとんどかかりませんが、法的なチェックが行われませんし、財産目録を除き自筆で作成します。
そのため、遺言書の有効性に問題が生じる場合があります。
また、その保管も自宅などで行うことが多いので、紛失や改ざんというリスクが残ります。
遺言書保管制度とは?
今回の遺言書保管制度は、自筆証書遺言を法務局で保管する制度です。
原本そのものだけでなく、データでも保存されますので、相続が発生した際には、どこの法務局からでも閲覧可能です。
若干の費用がかかることや、保管の手続きは本人しかできないことなど、少し手間のかかる点がないわけではありませんが、次に掲げる3つのメリットの方が大きいと言えます。
2.家庭裁判所の検認手続き(※)が不要になるため、
相続発生時の手続きがスムーズになる
※相続人に対して遺言書の存在と内容を知らせるとともに、
遺言書の偽造・変造を防止するための手続き
3.法務局で保管されるため、改ざんや紛失のリスクがない
「遺言書の準備はしておきたいけれど、公正証書遺言を作成してまでは・・・」
と考えていた方にとっては、活用を検討してみたい制度であると言えます。
遺言書の目的を達成するための3つのポイント
さて、次に、遺言書を作成する目的と、その目的達成のために押さえておきたいことをお伝えします。
公正証書遺言であろうが、自筆証書遺言であろうが、遺言書を作成する大きな目的は次の2つでしょう。
・相続人の間の余計な揉め事を減らす
そして、この2つの目的を達成するためには、遺言書の作成にあたって次のことに留意いただきたいと思います。
1.財産の現状把握を行う
1つ目は、「財産の現状把握を行うこと」です。
遺言書を作成する前に、自分のすべての財産について、種類ごとに分類し、財産価値を計算するなど現状把握を行ってください。
これができていないと、財産承継に自分の意思を反映することや、後述する遺留分の確認の妨げになる場合もあります。
弊社はお客様の財産承継のサポートをさせていただいていますが、最初にすることは、その方の財産の現状を把握することです。
2.遺留分の確認を怠らない
2つ目は、「遺留分の確認を怠らないこと」です。
遺留分とは、相続人に保証されている最低限の取り分です。
配偶者や子どもの場合、法定相続分(もともと受け取れる相続分)の2分の1が遺留分です。
遺言書があったとしても、遺留分が保証されない分け方であれば、相続人の間でトラブルや対立が起こりやすい状況が生まれます。
3.すべての相続人に配慮する
3つ目は、「すべての相続人に配慮すること」です。
相続対策では「財産を分けられるか」「税金を払えるか」が重要なポイントです。
経営者の場合、自社株は後継者に渡ることが多いと思いますが、高額な自社株だけの相続となると納税資金に苦労します。
一方で、配偶者や後継者以外の子どもの生活も考えていかなければなりません。
個々の状況にもよりますが、すべての相続人に配慮することで、余計な揉め事を防ぐことができます。
今回の遺言書保管制度は、遺言書を残しやすくなるという点で、多くの方の利用につながるのではないかと期待されます。
一方で、どの方式であったとしても、遺言の目的と、その目的達成のために押さえておきたいことに変わりはないということを理解いただければと思います。
アタックスグループでは、税務顧問、経営顧問だけでなく、様々な専門家が事業承継診断や財産承継支援など、事業承継に関する課題解決のためのご支援を行っています。
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筆者紹介
- アタックス税理士法人 代表社員COO 税理士 磯竹 克人
- 1987年 名古屋市立大学卒。税務・会計の業務を中心に数多くのクライアントに対する指導実績を持ち、親切で丁寧な指導が厚い信頼を得ている。現在は、事業再構築支援、事業承継支援、資本政策支援などを中心にクライアントの問題解決にあたっている。
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