最近、会社売却の相談をよく受けます。現社長がご高齢で、親族で会社を引き継ぐ人がいらっしゃらない場合がほとんどです。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、New Normal(新たな日常)が常態化することにより、今までのノウハウでは対応できず、新しい社長に引き継いでもらいたいというニーズも高まることが予想されます。
現社長としては、事業を誰にゆだねるかが、最後の大仕事なのです。
親族に後継者がいないのであれば、次に現社長が考えるのは、経営幹部や従業員(以下、「従業員等」と言います。)に事業を引き継いでもらえるかどうかです。
やはり苦楽をともにしてきた従業員等にできれば事業を引き継いでもらいたいと思うのは当然のことです。
この従業員等に会社を引き継いでもらうことをMBO(エム・ビー・オー)といいます。これは、Management Buy Outの頭文字をとったものです。
MBOの問題点とは?
このMBOを実施する際に問題になるのは、一般的には下記2点です。
2)事業の譲渡対価を従業員等が払えるかどうか?
1)今の従業員等では会社経営をしていくことは難しいのではないか?
経営者としてマネジメントできるかどうか、という点に関して言えば、もし従業員等に事業をゆだねようとするのであれば、社長教育をする必要があります。
社長業は、特別なスキルが求められます。社長は製造責任者や営業責任者の延長ではありません。「社長とは何か」を徹底的に指導し、伴走しながら、社長業を体現していってもらう必要があります。
すなわち、社長育成には時間が必要ということです。
2)事業の譲渡対価を従業員等が払えるかどうか?
資金の面ですが、現社長には老後の人生がかかっているわけですから、どんなにかわいい従業員であっても、最低限の事業対価は必要です。
その対価が数千万円から数億円となると、一個人ではなかなか払えるものではありません。その際に活用するのは、外部の資金です。いわゆるファンドや金融機関の資金です。
MBOの基本的なスキーム
具体的なスキームは以下の通りです。
現状
オーナーが対象会社の株式を100%所有しています。この時の会社の価値は10とします。
ステップ1
オーナーから会社を10で引き受けるため、特別目的会社(以下、「SPC」)とします)を設立します。設立にあたっては、ファンドの他に従業員も株主として出資します。銀行からも借り入れを実施します。
上記のケースでは、銀行から5.5を借り入れ、ファンドが4.0を出資し、従業員が0.5を出資して、10の資金を集めた会社を設立します。
ステップ2
SPCが持つ10を利用して、SPCがオーナーから100%株式を購入します。
その結果、ステップ2後にある通り、対象会社は100%株式をSPCに保有され、そのSPCはファンド・従業員に100%株式を保有されることになります。
これにより、ファンド・従業員グループが対象会社の経営権を取得することができます。
ステップ3
一般的には、SPCと対象会社は合併し、組織をシンプルにしていきます。
MBOスキームの特徴
MBOは、上記の通り従業員等も出資し、経営に関与していくことが前提になります。既存の事業を既存の従業員が従来通り経営をしていくということに関して、ファンドは魅力を感じ、資金を投じます。
成功するか失敗するかわからない新規事業(いわばベンチャー企業)に投資するより、すでに事業モデルが確立している会社に投資したほうが、利回りがたとえ悪くても成功確率の高い魅力的投資案件ということです。
但し、ファンドを活用したMBOは万能ではありません。ファンドも慈善事業で投資をしてくれるわけではありません。彼らもビジネスですので、投資した資金は必ず回収しなければなりません。その回収方法は、大きくは2つです。
(会社から見れば、自社株買いになります。)
②M&Aや株式公開のように、第三者に株式を売却していく方法
結果的にファンドが株主から離脱すれば、あとは従業員等の100%所有会社となります。もし、ファンドが株式公開で離脱をしてくれれば、従業員等は上場会社の役員という夢を実現できます。
このMBOを活用した事業承継は今後増えていくと予想されます。一方で、いろいろな細かな約束事を作らないといけないことも事実です。
アタックスグループは、MBOを活用した事業承継スキームについても、いろいろな経験を有したコンサルタントが在席しております。ご興味があれば、お気軽にご連絡ください。
筆者紹介
- アタックスグループ 代表パートナー
- 株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 代表取締役会長
- 公認会計士・税理士 林 公一
- 1987年 横浜市立大学卒。KPMG NewYork、KPMG Corporate Finance株式会社を経て、アタックスに参画。KPMG勤務時代には、年間20社程度の日系米国子会社の監査を担当、また、数多くの事業評価、株式公開業務、M&A業務に携わる。現在は、過去の経験を活かしながら、中堅中小企業のよき相談相手として、事業承継や後継者・幹部社員育成のサポートに注力。
- 林公一の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。