JTB資本金1億円に減資~資本金の大きさは何を表しているのか?

会計

旅行大手のJTBが2021年3月31日付で、資本金を現在の23億400万円から1億円に減資します。

コロナ渦で逆風が最も強いといわれる旅行業界に属するJTBの業績は悪化しています。

しかし、直前期の2020年3月期では、売上は業界ダントツの1兆2885億円、グループ会社を含めた従業員数は約2万7000人です。

その巨大企業が、法人税法上は「大企業」から「中小企業」となります。

国内企業の99.7%を占める約469万社の中小企業の経営を助けるため、税法により定義された中小企業に対しては税制上の優遇が複数あります。

JTBの減資の目的の一つとして、この税制上の優遇をあげることができます。

JTBの減資の目的の一つ「外形標準課税の免除」

大企業から中小企業になることで得られる優遇措置のうち、代表的なものは外形標準課税の免除です。

外形標準課税は、法人事業税の一つで、利益とは別の人件費など企業運営に必要なものを基準に算出されます。

地方団体が提供するサービスを企業が受けている以上、その受益額に応じて税を負担しなければならないという趣旨から定められている制度です。

赤字であればかからない法人税等とは違い、赤字であっても納税が必要となります。

JTBの当期決算は大幅な赤字を想定しているため、この税金を払わなくてよくなることは、資金面で大きなメリットがあります。

資本金の金額の意味

そもそも資本金は、会社設立時の運転資金であると共に、会社の価値を判断する際の、ひとつの評価材料にもなっており、資本金の金額が多ければ多いほど、会社の信頼度は高くなります。

そのため、減資のデメリットとして、今回のような資本金を少なくする減資をすれば、その会社の信頼度は下がることになると言われてきていました。

また、巨大企業の税金に対する考え方として、「行政サービスを受けながら、大規模な経済活動を行っている以上、多額の税金を支払うのは当然」との考え方のもと、巨大企業の節税狙いの減資に対する批判があります。

具体的な事例として、2015年に大幅な赤字に陥ったシャープが、1218億円の資本金を1億円に減らす計画を立案しましたが、批判が相次ぎ、計画を断念したことがあります。

しかし、現在は「資本金は会社の信頼度を表す」という考え方が変化しつつあります。

「資本金が大きいからといって倒産しないというわけではない」
「やる気と能力のある中小企業等の育成・発展を進め、我が国の経済活性化と雇用拡大を実現する」

このような考え方のもと、2006年に施行された新会社法では、最低資本金制度が撤廃され、資本金1円でも会社をつくれるようになりました。

また、会社の信頼度を測るという観点からみても、資本金よりも、資本金に主に設立時から現在までの損益を加算した純資産のほうが重要です。

財務分析の安全性指標として、私も必ず、負債および純資産の合計額(総資本)に占める純資産の割合をあらわす自己資本比率を算出し、その会社の信頼度を測定しています。

資本金を減資する理由とは?

ところで、減資には、株主に対して出資金額を配当する「有償減資」と、欠損の填補などのための「無償減資」の2種類があります。

JTBの計画している減資は、現金支出を伴う有償減資ではなく、現金支出を伴わない形式的な無償減資であり、減らされた資本金は、その他の資本剰余金という科目等に振り替えられるのみで、純資産の金額は変わらないことになります。

現在までに、1億円への減資を実施している大企業は、元の資本金が86億円であった居酒屋チェーン「庄や」を運営する大庄、元の資本金が90億円であった航空会社のスカイマークなどがあります。

いずれも、新型コロナの影響による経営不振企業であり、資本金の額という信頼よりも、節税による資金確保という実利をとったことになります。

今や資本金の大きさで会社の信頼度を測る時代ではなくなりました。

企業は、現在のような厳しい経営環境においては、資本金の大きさだけでは測定できない「純資産の維持・増加」に注力する、あるいは、一時的に損益が赤字になったとしても、企業継続に不可欠な「キャッシュ・フローの黒字化・最大化」を重要な財務方針とするなど、具体的な財務改善を実施することが必要です。

 

管理会計導入

筆者紹介

株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 取締役 錦見 直樹
1987年 富山大学卒。月次決算制度を中心とした業績管理制度の構築や経理に関する業務改善指導を中心としたコンサルティング業務に従事。グループ7社を有す中小企業の経理・経営企画部門出向中に培った豊富な経理実務経験を武器に、経営者、経理責任者の参謀役として活躍中。
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