人口動態から読み解く若手社員の実態とは?~先細り人口時代の後進育成~

人材育成

今時の若手・新入社員の傾向として、「指示されたことしかやらない」「自分で考えない」「発信力が無い」と言った評価(批判)を耳にすることがあります。

また、「自分は、上司・先輩の背中を見て(or先輩の仕事を盗んで)育って来たのに、何故部下に細かく教えてあげなくてはいけないのか?」と疑問を抱くマネジメント層も多いようです。

これは、古代エジプトの時代から”最近の若者は・・・”と言うのは中高齢者の口癖だった、ということだけかもしれませんが、その他にも、ゆとり教育や、日本経済の長期低迷、といった要因もあるとされているようです。

ここでは、少し視点を変えて人口動態の観点から、そんな若手気質を考えてみましょう。

人口動態からみえてくるもの

ご存じの通り、現在、少子化が急速に進行中です。

日本における、2020年の20-24歳の男女は合計で約620万人で、1970年頃のピーク1070万人と、第二次ベビーブーマーが成人した1995年頃の990万人を二つのピークとして下がり続けています。

因みに、20-24歳人口の620万人という数字は、約80年前の、1940年とほぼ同数となります。

では、昔と比べて何が違うか?
それは “上司”の数です。
1920年、1970年、2020年と50年刻みで比べてみると、

1920年 1970年 2020年
20-24歳人口 4.6百万人 10.7百万人 6.2百万人
45-49歳人口 2.7百万人 5.9百万人 9.8百万人

単純に人口比率で、20-24歳一人当たりに対して、45-49歳の上司が何人いるかを見ると、

1920年 1970年 2020年
人数 0.58人 0.55人 1.59人

となります(年齢的にはある程度上級の上司の想定です)。

比率で換算すると、部下一人当たり上司の数が、昔に比べ約3倍に増えていることが分かります。

逆に、少し乱暴に言えば、昔は上司1人に3人の部下がいた部署が、今は1人しか部下がいないということになります。

部下や後継者の育成における2つの問題点

これは部下や後継者育成として2つの問題点があります。

競争環境の問題

一つは競争環境の問題です。

昔は、長期的には3人で1つの椅子を取り合う*ことになるので、切磋琢磨や、相手を出し抜いたり、追いつこうとしたり、といった努力が生み出されるでしょうが、今は、1人に1人分の椅子が用意されている*状況です(一方で、高齢化等による昇進の遅れ等の閉塞感もありますが)。

(注*)正確には、昔は約2人で1つの椅子を、現在は1人で1.6の椅子を取れることになります。

絶対数の問題

もう一つは絶対数の問題です。

人数が居れば、おとなしい人や活発な人、冷静な人や熱烈な人も居て、その中に、会社として将来を委ねたい人材も出てくるでしょうが、以前は、3人から誰かを選べたとすると、今は1人居ればその人に任せざるを得ない状況になります。

逆に、若手の立場から見ると、昔に比べて、大幅な(3倍の)売り手市場化が進んでいることとなります。

こうした環境に鑑みると、”最近の若者は・・・”と言う以前に、昔ながらの、”背中を見て育て””上司の技を盗め”というだけでは不十分なことは明らかです。
(勿論、真似したくなるような背中、盗みたくなるような技術を 上司が持っていること自体は大切なことです)

企業側に能力や適性のある人を選ぶ権利はあるのか?

少し下らない話になりますが、往年流行した漫画”北斗の拳”では、北斗神拳の伝承者リュウケンは、伝承者候補の4名から、最終的に最も適性のあったケンシロウを一子相伝の相手としました。

一方で、武術・技芸等では、例えば、自らの子供一人をかなり幼いころから承継者と定め育てる形の一子相伝も多いようです。

その点では、今の事業や仕事の承継は、段々と前者から後者タイプに移りつつある、しかし、家柄による覚悟とか責任感に関係なく、就職でたまたま巡り合った人に一子相伝で伝える時代だと考える必要もあるのではないでしょうか。

(注)実際には、閉鎖的な一子相伝では後継者が育たないので、技術を開放して後継者を集める傾向にあります。ここでは、解放しているにせよ、承継できる相手が限られている、という意味で、後者タイプに近づいていると表現しました。

つまり、多数の人の中から、能力のある人・適性のある人を、企業側の権利として選ぶことが、人口動態的にも難しい時代です。

目の前にいる人をどう育てるのか?

そうなると、まずは、如何に、目の前にいる人を大切にし、育てるか、ということが重要ではないでしょうか。

決して甘やかせて育てる、ということではなく、

  • 社会人として生きていける(付加価値を上げられる)スキルを本人が自覚する形で教えられること
  • 仕事のスキルだけでなく、意義や楽しさを、”背中”で伝えるだけでなく、明確な言葉で教えられること

が、最低限必要になってくると思います。

勿論、そんなことをしなくても、既にそのような仕組みが出来上がっていたり、知名度や処遇等で、若手社員を引き付けられる企業においては、杞憂かもしれません。

ただ、上述の通り、平均的には、今の組織規模を維持するのが困難な時代に突入しています。

おわりに

人口動態という切り口からのみ、多少強引に若者・新入社員気質を分析してみました。

人口推計によれば、今の若手社員が45-49歳になる2045年には、同年代人口が今の6割に減少し、その時の20-24歳人口は、今の7割程度に減少します(その時点での、45-49歳人口に対する20-24歳人口の比率は7割程度と、依然として上司過多)。

今は、コロナ禍でもあり、先ずはこの危機を乗り越えることが最大の課題ですが、もし一段落すれば、そして自らの企業の長命を願っているならば、20年後の人口動態を踏まえた、会社や組織を考えるのも大切ではないでしょうか。

本コラムのポイントを動画でも解説しています

筆者紹介

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株式会社アタックス 執行役員 金融ソリューション室 室長 松野 賢一
1990年 東京大学卒。大手都市銀行において中小中堅企業取引先に対する金融面での課題解決、銀行グループの資本調達・各種管理体制の構築、公的金融機関・中央官庁への出向等を経て、アタックスに参画。現在は、金融ソリューション室室長として、金融・財務戦略面での中堅中小企業の指導にあたっている。
松野賢一の詳しいプロフィールはこちらをご覧ください。

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