新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、税務調査の件数が大きく減少し、量から質を重視した運用に変わってきたようです。
2020事務年度(2020年7月から2021年6月)でみると、法人税の実地調査件数は前年度から約67%、申告漏れ金額の総額は約32%減少しましたが、1件あたりの申告漏れ金額は約2倍になっています。
ちなみに、相続税においても、実地調査件数は前年度から約52%、申告漏れ金額の総額は約41%減少しています。こちらも、1件あたりの申告漏れ金額は約1.2倍になっています。
実地調査に行けない分、事前の調査に力を注ぎ、大口事案や悪質性が高いと見込まれる事案などの税務調査に重点を置いた結果のようです。
量から質への流れはこれからも変わらない!
今回の結果は、新型コロナウイルスの影響が大きいわけですが、量から質への流れは従来からの方針であり、これからも変わらないでしょう。
少し前になりますが、国税庁は平成29年6月に「税務行政の将来像」を公表しています。
そこでは、税務手続きなどのデジタル化を進め、「納税者の利便性の向上」をはかるとともに、「課税・徴収の効率化・高度化」を柱とした、「スマート税務行政」に進化していくことを示しています。
税務調査という点で言えば、調査などの複雑・困難化といった環境変化に対応すべく、全体として効率的な資源配分に努め、国際的租税回避への対応、富裕層に対する適正課税の確保、大口事案・悪質事案への対応といった重点課題に的確に取組むことを明らかにしています。
過敏になる必要はないが、油断は禁物!
税務調査が量から質に向かうとしても、決して過敏になる必要はありません。
筆者も税務調査に立ち会うことが多いのですが、ちゃんと対応していけば大きな問題は防ぐことができます。
ただし、油断は禁物です。
1年間、全社一丸となって事業に取り組み、1億円の利益を上げたとします。
法人税などの税負担率を約30%とすれば、3,000万円の税金になります。
この税金を支払った後の利益で、株主への配当を行い、次の事業成長のために投資し、イザというときのために蓄積しておくわけです。
こうしてみると、もともと税金は大きなコストなのです。
思わぬ否認を受けて、さらにその支出が増えるのは避けねばなりません。
そのためには、税務リスクに対して、必要な準備を疎かにしないことが重要です。
税務リスクを小さくするための点検はどの様に行うべきか?
税務リスクとは、会社側の主張や解釈が、税務調査などで認められない場合のリスクを言います。
この税務リスクを少しでも小さくするために、たとえば次のような点検を行っていただきたいと思います。
税務のプロの知恵を活用する
顧問税理士は税務のプロです。
新しい取引が発生する場合は早めに相談し、重要な取引は定期的に確認してもらうと、税務リスクを小さくするのに役立ちます。
また、顧問税理士とのやり取りのなかで、税務リスクがありそうか気付けるようになりますし、リスクの大きさがどの程度かといった感覚も身につきます。
意思決定・決裁の機能に問題がないかを確認する
税務調査では、事実に基づいた確認などが行われます。
会社の意思決定・決裁の機能が整備されていないとか、きちんと運用されていないと、口頭での説明しかできず、調査官に疑念を持たれやすくなってしまいます。
いまいちど、会社の意思決定・決裁のルールや運用状況を点検し、整備すべきこと、改善すべきことがないか確認してください。
書面で残し、客観的に説明できる仕組みをつくり上げると強いでしょう。
過去の税務調査における反省点を活かす
多くの会社は過去に税務調査を受けていると思います。
否認を受けてしまった項目だけでなく、指導を受けた項目や調査の中での反省点などをまとめておき、年に1回は会社の取引全体について点検することです。
もちろん必要なら、改善策を検討し実行していきます。
税務リスクの軽減だけでなく、経営改善に役立つこともあろうかと思います。
会社の取引は複雑で多岐にわたりますので、税務リスクをゼロにすることはできませんが、小さくするための対策を取ることはできます。
ぜひ、効果的な点検で対策していただければと思います。
アタックス税理士法人の税務顧問サービスについてご関心のある方は、お気軽にこちらからお問い合わせください。
筆者紹介
- アタックス税理士法人 代表社員 税理士 磯竹 克人
- 1987年 名古屋市立大学卒。税務・会計の業務を中心に数多くのクライアントに対する指導実績を持ち、親切で丁寧な指導が厚い信頼を得ている。現在は、事業再構築支援、事業承継支援、資本政策支援などを中心にクライアントの問題解決にあたっている。
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