新型コロナウイルスの感染拡大に加え、世界情勢が不安定化しており、「不確実性」を実感している人も多いのではないでしょうか?資源高騰も継続しており、地政学リスクも含め、今後の不透明さは続くことが想定されます。
このような経営環境の外部要因に対して、企業はどのように対応していくべきでしょうか?
非常事態が起きた時に備えて、BCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)の整備が推奨されていることは広まっていますが、本日はその中でも「オールハザード型」のBCPをご紹介します。
オールハザード型のBCPへの転換
従来のBCPは、どのような危機が想定されるか、つまり、非常事態の原因・脅威を設定した上でどのように対応するか、という視点で策定されてきました。
しかしながら、実際にBCPを策定している企業においても、新型コロナウイルスの感染拡大で既存のBCPがそのままでうまく機能した、と言える企業は多くはありません。
すべての非常事態の事象を想定することは現実的ではない、とも言えるかもしれません。
そこで、2021年2月の経団連からの提言においても推奨されているのが「オールハザード型」のBCPへの転換です。
「オールハザード」とは、あらゆるリスクに耐えうるものであり、「オールハザード型」BCPでは、危機の内容の違いに左右されずに事業を着実に継続していくことを目的としています。
オールハザード型BCPにおける思考
それでは、「オールハザード型」BCPでは具体的に非常事態に対してどのように考えれば良いのでしょうか?
2021年版 ものづくり白書では、次のように掲げられています。
人命保護のための初動や社内体制の構築に加えて、とりわけ、人員・設備が一部機能不全になったという「結果そのもの」に着目しつつ、係る状況下でも事業を継続するための「リソースベース」での想定を進めておくことが重要
つまり、従来型のBCPでは地震・水害等の発生原因に対してどのように対応するかという視点でしたが、
オールハザード型BCPでは、非常事態によって人員に死傷者が出た、設備が破損した、サプライヤーのサービスが停止した等、企業活動にあたって必要なリソースがどうなるか、に着目することを求めているのです。
この視点ですと、想定していなかった非常事態や感染症と自然災害が同時発生する複合災害時においても対応が可能となります。
今後の対応
とはいえ、いきなりオールハザード型のBCP策定は進めにくく、対応すべき視点の抜け漏れが起きやすいでしょう。
また、経団連の提言においても、オールハザード型の「転換」を掲げながらも、既存のBCPの見直し・活用に加えることを提唱しています。
そのため、まだBCP策定ができていない企業は、例えば日本においてリスクを抱える大地震に対して従来型のBCPを策定することから始めることが進めやすいと考えられます。
また、BCP策定・見直しの一環で、サプライチェーンの可視化を行い、サプライチェーン全体を俯瞰し、調達先の分散など、多面的なリスク対応を行っていくことがこの情勢下においては、より求められることになると考えられます。
トヨタ自動車株式会社では、東日本大震災時にサプライチェーンの被害状況把握に時間を要したことをきっかけに、自社の調達先やその先の調達先をシステムで管理し、可視化する取組を実施し、災害時の被害状況把握に要する日数を大幅に短縮するデジタル技術も活用しました。
新型コロナウイルスの感染拡大で、各国・各地域の生産停止や物流停止の影響を受けた企業も多いですが、現在・今後の情勢においてもサプライチェーンに何かしらの影響を受ける可能性は十分にあり得ると考えられます。
BCPは、中小企業ではまだ策定できていない企業も多いですが、不測の事態においても対応できるように、これを機に策定や見直しをしてはいかがでしょうか?
筆者紹介
- 株式会社アタックス・エッジ・コンサルティング 取締役 公認会計士 新川 真代
- 株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティングにて中堅中小企業向けに企業再生・経営支援等の経営コンサルティングを従事。現在は、株式会社アタックス・エッジ・コンサルティングにて会計専門家としての知見・経験を生かしながら、会計専門家の業務効率化・中堅中小企業の経営に資する情報提供のためのシステムを開発・運用に取り組んでいる。
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