中小製造業の「データ連携強化」が収益改善の鍵!営業が取組む3つの成功ポイント

中小製造業の「データ連携強化」が収益改善の鍵!営業が取組む3つの成功ポイント 営業

製造業の多くは、原材料価格の高騰や為替変動、人件費の上昇などに苦慮しながら、持続的な成長を模索しています。

しかも調達リスクが高まり、これまでの価格やコスト構造を維持するのは難しくなってきました。

当然、「値上げ交渉」を含めた価格調整は避けて通れません。ですが、取引先との関係が深い場合、営業が踏み出しにくいシーンも多いのが現実です。

そこで今回は、製造業がデータを共有・活用しながらどのように問題を解決していくべきかを解説します。

特に中小製造業で苦戦している営業パーソンやマネジャーには、ぜひ最後まで読んでいただきたいです。

中小企業ほど「部門間データ連携」が遅れがち

帝国データバンクの調査(2023年7月)によれば、原材料費の上昇分を販売価格に転嫁できている企業はまだ一部に過ぎません。

全額転嫁できる企業は4.5%にとどまり、大半が収益改善に手こずっています。

特に中小企業ほど、値上げ交渉において腰が引けてしまい、結果的にコスト増を吸収しきれず、賃上げも後ろ倒しになりがちです。

なぜ、こうした事態に陥るのでしょうか。その一因は部門間の情報共有不足にあります。

とりわけ中小企業では「営業は営業」「生産は生産」「調達は調達」という風に、それぞれの担当者が持つデータを共有せず、場当たり的に価格交渉を進めてしまうケースが目立ちます。

これでは「こんなに受注があるのに、なぜ利益が残らないのか」という現象が起きても不思議ではありません。

だからこそ、今こそ待ったなしで「データ連携」に取り組む必要があるのです。

2種類のデータを押さえよう

2種類のデータを押さえよう

調達から製造までのプロセスで扱うデータは多岐にわたりますが、ここでは製造業がとくに注目すべき2種類のデータに絞ってみます。

原材料コストと需給情報

まず重要なのが、調達部門が持つ「原材料コスト」と「需給情報」です。

原材料の市場価格は為替や国際情勢によって変動します。そのうえ、仕入れタイミングを誤れば急騰した時期に大量発注してしまう恐れもあります。

調達が生産計画に合わせて材料を確保していても、その情報が営業に共有されなければ、値上げが必要なタイミングを逃してしまうでしょう。

その結果、無理な価格設定で受注し、利益を圧迫するリスクも高まります。

生産現場の工数と稼働率

次に着目したいのが、製造部門が持つ「工数データ」と「稼働率」です。

製造ラインの現場がどれだけの時間と労力を要しているのか、どの程度生産能力の余裕があるのかを営業が把握していないと、納期や価格の提示が難しく、特注品や短納期の案件をむやみに引き受ければ、残業や追加コストが膨れ上がり、最悪の場合は、赤字に転落しかねません。

工数と稼働率の情報をリアルタイムに共有することで、価格交渉においてもより正確な裏付けが得られるでしょう。

値上げ交渉を成功させる3つのポイント

では、データ連携を強化したうえで、値上げ交渉をどう進めるべきなのでしょうか。

そのための3つのポイントを解説します。

日ごろの接触で信頼関係を強化する

部門間のデータ連携と同様、取引先とのこまめなコミュニケーションが不可欠であり、「いざ値上げ!」というときだけ連絡をしても、相手は納得しません。

日ごろから取引先の要望や課題をヒアリングし、情報をやり取りすることで、いざ価格改定が必要になったときの心理的ハードルはぐっと下がります。

交渉前の根回しと準備

交渉の準備段階で、調達部門からは「原材料の市場価格と仕入れ状況」、製造部門からは「生産工数や稼働率に関するデータ」を共有してもらったうえで、「なぜ今、値上げが必要なのか」を数字で示せるように準備が必要です。

一方的な「すみません、いろいろ高騰しているので……」というアピールでは不十分ということです。

具体的な材料費の高騰率、追加作業工数の増加など、可能な限りデータを用いて根拠を整理しておき、さらには根回しも重要です。

複数の選択肢を提示する

値上げ交渉においては、相手が受け入れやすいように複数の選択肢を用意します。

例えば「即時値上げ」「段階的値上げ」「生産ロットや納期の見直し」といったバリエーションを提示し、相手の事情に合わせて選択できるようにしましょう。

選択肢を出すためにも、調達・製造・営業の3部門が連携してシミュレーションを行うことが重要です。

どの案なら生産ラインに負荷が少なく、どの案ならコスト増を吸収できるのか。

事前に部門間で協議し、実現可能な案を準備しておくことが、交渉の成功を大きく左右します。

新規開拓がデータ連携を促進する

新規開拓がデータ連携を促進する

既存の取引先に対して値上げ交渉を進めるのは心理的に負担が大きく、特に中小製造業では「取引先を失いたくない」という恐れから、営業が値上げを後回しにするケースが多く見られます。

しかし、このまま負担を抱え込むと、調達部門はコスト増に耐え、製造部門は無理な納期と低マージン案件を背負い続けることになり、長期的な成長は見込めません。

そこでおすすめしたいのが、新規開拓によるリスク分散です。

既存のお客様を大事にするのももちろん大事ですが、新規顧客の獲得にも力を入れれば、「もし既存顧客から離れられても他に受注先がある」という心理的余裕が生まれます。

営業が主体的に新規顧客の要望や価格帯をヒアリングし、調達・製造部門と連携しながら最適なコスト設計を模索することで、自然とデータ共有も進むでしょう。

まとめ

調達や製造、そして営業がバラバラに動いていると、どれだけ売上を伸ばしても利益が追いつかず「空回り」状態に陥りやすいのです。

だからこそ部門間でデータを共有し、互いの状況を正確に把握することで、値上げ交渉を含めた価格戦略の幅が大きく広がります。

営業パーソンは単なる「売り子」ではなく、社内のハブとして調達・製造・経営層をつなげる役割も担うべきです。

データに基づく適切な提案ができれば、取引先も納得しやすく、値上げ交渉が必要な場面でも説得力をもって臨めるでしょう。

「こんなに受注しているのに、なぜ利益が残らないのか?」

その問いに答えられるようになるためにも、まずは調達・製造部門とのデータ連携を実践してほしいと思います。

これからの製造業が競争力を維持し、安定した利益を確保するためにも重要なポイントです。

筆者紹介

横山信弘

株式会社アタックス・セールス・アソシエイツ 代表取締役社長 横山信弘
企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。15年間で3000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラム、昨今はYouTubeチャンネル『予材管理大学』を通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。

「日経ビジネス」「東洋経済」「PRESIDENT」など、各種ビジネス誌への寄稿、多数のメディアでの取材経験がある。メルマガ「草創花伝」は3.8万人超の企業経営者、管理者が購読する。著書は『絶対達成マインドのつくり方』『絶対達成バイブル』など「絶対達成」シリーズの他、『「空気」で人を動かす』等多数。著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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