AIの技術革新は目覚ましく、ビジネスの現場でもその活用が急速に広がっています。
特に2025年は「AIエージェント元年」と位置づけられ、その動向に世界が注目しています。この潮流の中、AIの社会実装は新たなステージへと突入するでしょう。
AIエージェントと呼ばれる、自律的にタスクを実行するAIの登場は、企業経営に大きな変革をもたらす可能性を秘めています。
本稿では、AIエージェントとは何か、そして企業経営にどのような影響を与えるのかについて、ChatGPTの開発元として知られるOpenAIが2025/1/23にリリースしたAIエージェント「Operator」の事例を交えながら解説します。
※本稿リリース時点(2025/2/6)において、Operatorは米国のみ利用可
AIエージェントとは?
AIエージェントとは、人間が設定した目標を達成するために、AI自ら周囲の環境を認識し、収集データに基づいてタスクを実行するAIです。
従来のAIは、人間からの指示に基づいて情報処理やコンテンツ生成を行うことが主な役割でした。しかし、AIエージェントは、この「アウトプット」の先にある「アクション」まで実行できる点が大きく異なります。
つまり、AIエージェントは、人間の「代理人」として、現実世界でタスクを実行する能力を持っているのです。
AIの現在地と、2025年における進化の見通し
AIの進化について、OpenAIは5段階のフレームワークで定義しています。
現在、多くのAIはステップ1または2の段階にあります。そして2025年はステップ2が達成され、ステップ3のAIエージェントの一部機能まで実現される見込みであると言われています。
AIエージェント台頭の背景
AIエージェントが2025年のトレンドとして注目を集めているのは、自然言語処理技術の向上、データ量の爆発的な増加、クラウドコンピューティングの普及といった技術革新の要因がもちろん大きいと言えます。
しかし、それだけではありません。この潮流は、「人間の認知限界を超える問題解決ニーズ」と「持続的成長のための生産性革命」という現代社会の根本的な課題解決への強い期待に応える形で、発展を遂げている背景があります。
OpenAIの「Operator」の事例紹介
OpenAIが開発した「Operator」は、AIエージェントの可能性を示す好例です。
「Operator」は、ブラウザを介して人間の指示を実行するAIエージェントであり、人間が自然言語で指示を出すだけでウェブサイトを操作し、タスクを実行することができます。
事例1:デリバリー注文
デリバリーサービスを利用して、指定された条件(例:〇〇円以下、ピザ+お茶+サラダ)に合致する商品を検索し、注文を完了させることができます。
事例2:商品購入
ECサイトで、指定された条件(例:〇〇円以下、評価が3.5以上、PCの充電ケーブル)に合致する商品を検索し、購入手続きを行うことができます。
事例3:旅行予約
旅行予約サイトで、指定された条件(例:羽田から〇〇への直行便、2/6午前出発、大人2名)に合致するフライトを検索し、予約手続を行うことができます。
「Operator」の特徴は、次の3点です。
- ブラウザ上で人間が視覚認識しながら行う操作のすべてが代替できる
- 条件分岐があったとても、思考過程をテキストで明示する
- 重要なアクションの前には人間に確認を求める
従来、タスクの完全自動化を実現する場合、異なるシステム間のAPI連携や、RPA(ロボティクス・プロセス・オートメーション)の導入が必要となり、実現には高いハードルがありました。
さらに、どういった場合にシステムはどのように振舞うか、シナリオをあらかじめ定義しておかなければならず、現実の業務の不確実性に対し柔軟に対処することが困難でした。
「Operator」は、これまでのハードルを著しく低下させ、不確実性に柔軟に対処できるようになったことが非常に画期的なのです。
AIエージェントが企業経営にもたらすインパクトと、経営者が備えるべきこと
「Operator」のようなAIエージェントは業務効率化、高度な意思決定支援、新規ビジネス創出など、企業経営に大きなインパクトをもたらすことが容易に想像できます。
そのインパクトを最大限に活かすには、経営者自身の手腕が問われます。その鍵となるのが、「マニュアル化」と「デジタル完結」です。
AIエージェントは、プロンプト(指示)に基づいて動作します。つまり、人間の業務をAIが理解できるレベルまで分解し、言語化・標準化した「マニュアル」が必要です。
これは、AIエージェントへのプロンプトであると同時に業務プロセスの可視化、属人化の排除、生産性向上にも繋がります。
さらに、AIエージェントの効果を最大化するには、業務フローを「デジタル完結」させることが不可欠です。
途中段階で紙資料や手作業が介在すると、AIのタスクが一気通貫で完了できず、効率化の効果も半減してしまいます。
そのため、経営者は以下のステップで、AIエージェントの活用を検討する必要があります。
STEP1:現状分析と目標設定
現在の業務フローを詳細に分析し、AIエージェントでどの部分を自動化・効率化したいのか明確な目標を設定します。
STEP2:業務のマニュアル化
対象業務をステップごとに分解し、AIエージェントが理解できるレベルまで言語化・標準化します。
STEP3:デジタル完結化
業務フロー全体を見直し、デジタルツールを活用してアナログなプロセスを排除し、AIエージェントが一気通貫でタスクを遂行できるフローの設計を行います。
STEP4:段階的な導入と効果検証
一度に全てを導入するのではなく、一部署や特定業務から始め、効果を検証しながら徐々に範囲を広げていくアプローチが有効です。
STEP5:継続的な改善
AIエージェントの学習データや業務マニュアルは定期的に見直し、改善していくことで、パフォーマンスの向上を図ります。
また、AIエージェントの利用に伴う倫理的な課題(例:プライバシー保護、セキュリティ)が発生していないかについても、継続的な検証・改善が必要です。
さいごに
冒頭にも触れたとおり、2025年は、AIエージェントの実現に向けた大きな一歩が踏み出される年となるでしょう。
しかし、完全な自律性を備えたAIエージェントの登場には、まだ時間が必要です。現時点では、人間が判断しやすい簡単なタスクや、限定的な業務領域での活用が現実的です。
とはいえ、AI技術の進歩の速度は凄まじく、本稿執筆中にも中国から新たな大規模言語モデル「DeepSeek」がリリースされました。
この分野の競争は激化の一途をたどっており、2025年末には、現時点での予想をはるかに超えるようなAIエージェントが登場している可能性も十分にあります。
今後もこちらの動向にはご注目下さい。
筆者紹介
- 株式会社アタックス・エッジ・コンサルティング 代表取締役 公認会計士 酒井悟史
- 慶應義塾大学経済学部卒。公認会計士試験合格後、有限責任監査法人トーマツ・トータルサービス事業部にて、監査業務の他、株式公開支援業務等に従事。2014年アタックス税理士法人に参画し、主に上場中堅企業の法人税務業務に従事。2019年株式会社アタックス・エッジ・コンサルティングの代表取締役に就任。現在はクラウド会計や開発システムの導入を通じ、中堅中小企業および会計事務所のイノベーション促進に取り組んでいる。