先月、帝国データバンクによる「コンプライアンス違反企業の倒産動向調査(2024年)」が発表されました。
同調査によると、2024年のコンプライアンス違反倒産は388件で、3年連続で前年比増となり過去最多を記録したとのことです。2021年は189件でしたので、コロナ禍を経て倍増したということになります。
その中で最も多いのが粉飾決算による倒産でした。こちらも2019年の84件を上回り、過去最多になったということです。
増加のきっかけはやはり、2020年に始まったゼロゼロ融資などの返済期限の到来のようです。
各種資金繰り支援策の活用で生き延びていた企業が、事業継続を求めて金融機関などに支援を要請する際に、長年の粉飾が発覚したり、自ら粉飾決算を告白したりするケースが多いようです。
企業はなぜ粉飾決算に手を染めるのでしょうか。コロナ禍による経営環境の悪化も一つの要因かもしれませんが、そちらはあくまできっかけに過ぎず、筆者の経験から、その行動に至る原因は大きく5つに大別されると考えています。
①外部の利害関係者に対する業績悪化の隠蔽
銀行から融資を引き出すためや株価維持のため、また取引先からの信用維持のために赤字を黒字に見せかけたり、売上を過大計上したりするケースです。
②目標達成に対するプレッシャー
現場の数値責任をもつ営業などの担当者が、期待される業績目標を達成するために、売上の前倒しや嵩増しなどで不正に数字を操作するケースです。
当然に経営者があずかり知らぬところで粉飾が起こってしまう場合もあります。
もちろん、株主や債権者などのステークホルダーが短期的な目標達成に過度に焦点を当てている場合など、経営者自らが不正を起こしてしまう場合もあります。
③M&Aや上場を有利に進めたい
企業価値を高く見せかけるために、粉飾決算を行う場合もあります。
買収価格を吊り上げたり、上場時の株価を高騰させたりする目的がある場合に行われます。
④個人の報酬を上げたい
経営者や業績連動によるインセンティブの対象となる従業員が、自身の報酬を増やすために自身の成績を過大に粉飾するケースです。
⑤コーポレートガバナンスや内部統制の不備
企業統治のしくみの不備により粉飾しやすい環境が成立してしまっているケースです。
先の①~④の動機があったとしても整備されていれば行われなかったはずの不正が、これらが未整備のために実行されてしまう場合です。
翻って、①~④の動機があっても⑤のコーポレートガバナンスや内部統制機能がうまく働いていれば(一定の限界はありますが)、粉飾が起こりにくくなると考えられます。
ちなみに「コーポレートガバナンス」と「内部統制」はよく混同されますが、異なる概念です。
第三者が経営者や企業の不正や不祥事を防ぐ取り組み
■内部統制
社内で経営者や従業員の不正や不祥事を防ぐ取り組み
どちらも企業経営の健全性を担保するしくみですが、東京証券取引所の「コーポレートガバナンス・コード」によれば前者の方が上位概念であり、後者(内部統制)はコーポレートガバナンスを成立させるための中核的な位置づけとなります。
中小企業にとっての不正会計対策は、内部統制の4つの目的の一つ「財務報告の信頼性」を担保するのが最も身近な対策になるでしょう。
基本的にいったん粉飾に手を染めるとその解消には何倍もの労力が費やされます。また、明るみに出たときの事を考えると、そのレピュテーションリスクは計り知れないダメージを負う結果につながります。
①~⑤に記載した通り、その実行者は経営者とは限りません。数値責任をもつ全ての構成員にその可能性が内在します。
そして、手を染めた人間が悪いという単純な話ではなく、行える環境を用意してしまった会社や経営者に重大な責任があるということです。
そうなる前にぜひ、統制環境としての経営の仕組みを充実させ、経営者や社員を守りましょう。
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筆者紹介
- 株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティング 取締役 税理士・MBA(経営学修士) 浦井耕
- TFP(現山田)コンサルティンググループ、中小会計事務所を経て株式会社アタックス・ビジネス・コンサルティングへ入社。ハンズオンによる管理制度構築支援や多数の企業再生支援に従事。2011年の東日本大震災以降は特に宮城県内の被災企業の再生支援を多く手掛ける。