前回は「未上場会社における従業員持株会の活用」についてお伝えしました。
今回は、これまでお客様からご相談のあった内容なども踏まえ、従業員持株会の留意点について解説したいと思います。
1.従業員持株会の会員数の維持
せっかく従業員持株会を設置し会員を募集したにも関わらず、また退職する従業員の代わりに新たな会員を募集したにも関わらず、応募してくれる従業員がほとんどいない、というご相談が結構あります。
これは、従業員持株会の存続に直結してしまう問題です。なぜ、このようなことになってしまうのでしょうか?
これには、次のようなことが原因として考えられます。
(1)魅力的な設計になっていない
投資に対する利回りが低いということだけではなく、配当として受け取る金額自体が少ない、ということもあるようです。
利回りは10%だけれども、所有している株式相当数や1株あたりの配当相当額が少ないために年10,000円の配当を受け取るだけ、というような場合にはあまり魅力的とは言えないでしょう。
(2)資金調達が困難
手許資金がない、ということは、社員が持株会に加入しない主な原因のようです。
これを解決するためには、社内融資制度を整備する必要がありますが、この際、金利が利回りより低く設定できると、魅力的な制度になります。
また、従業員持株会に出資する金額が高額で手が出ない、ということもよく聞く話しです。
1株あたりの出資相当額が高すぎる、もしくは所有する株式相当数が多すぎると敬遠され勝ちになります。1株あたりの出資相当額については、次の「株価のルール」で触れますが、所有する株式相当数については、役職ごとに上限のみを設け、受け取る配当相当額と可能な資金調達額で個々に判断をしてもらうようにすると良いでしょう。
2.従業員持株会の株価のルール
上に述べたようなことを回避するためには、従業員持株会に加入する際に1株あたりの出資相当額をいくらとするか、退職などに伴い脱退する際にいくら払戻しをするのか、に関する従業員持株会としてのルールを適切に設定することが肝要です。
これは上述の「魅力的な設計」「資金調達」、つまり無理のない投資額で魅力ある配当を受け取ることができるようにすることは勿論ですが、会員である従業員間の不公平感の排除のためにも重要になってきます。
未上場会社の株価は市場がないため公正な株価は算定できません。
また、仮に何らかの算定ルールを作ったとしても、従業員持株会の脱退の多くは定年退職によるものであり、自分の意志による脱退ではありませんので、その時の会社の状況により株価が上下してしまいます。
現に、算定ルールを作り、それに基づいて従業員持株会の運営を行ってきた会社では、株価が上がり過ぎたため多額の資金が必要となり新規加入者がいなくなったとか、定年退職直前に業績が下がってしまったため加入時に払った金額よりかなり少ない金額の払戻しになったなど、トラブルが少なくないようです。
従って持株会に関する株価は、算定ルールで運用するのではなく、一律○○円、加入するときも脱退するときも同額、とすることが望ましいでしょう。 その際、会員である従業員のモチベーションアップのために、業績に応じた魅力的な配当ルールを定めることが望ましいと思います。
3.その他の留意点
紙面の都合で詳しく記載することはできませんが、場合によっては、次のことにも留意する必要があります。
(2)(「株価のルール」にも関係しますが、)
高額での買取りを要求されないような対策準備(念書の受領など)
以前お伝えしたとおり、従業員持株会を活用する場面は多々ありますが、その設置にあたっては、これらの点を事前に十分に検討をしておく必要があります。
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筆者紹介
- アタックス税理士法人 社員 税理士 村井 克行
- 1987年 南山大学卒。「会計税務の知の集結と事例の体系化」を確立すべく立ち上げた「ナレッジセンター室長」を務めた後、現在は、組織再編や相続対策など、最新の税法・会社法の知識を生かした永続企業のための総合的な支援業務に従事。誠実で緻密な仕事ぶりは多くのオーナー経営者から高い評価を得ている。
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