中国が2020年5月、香港に国家安全法を適用する方針を全国人民代表大会(全人代)で承認して以降、香港では1997年以降で最悪の経済的及び政治的危機に直面しており、香港在住の富裕層は海外に脱出したり、資産を海外に分散させるなどリスクヘッジする動きが強まっています。
香港は、1842年の南京条約で香港島が、そして、1860年の北京条約で九龍半島の先端が英国の領土となり、1898年に新界を99年間租借する契約により一帯を英国が支配してきましたが、1997年に中国への返還が行われ、以降、中国は「特別行政区」として50年間、一国二制度により香港を現状のまま維持することを公約してきました。
その結果、自由経済が発展し、今ではニューヨーク、ロンドンに次ぐ国際金融センターの地位を確立させ、貿易等のビジネスの拠点として栄え、税制面においても中国と異なる税制が維持され、海外の投資家や企業からその優位性を評価されるに至りました。
税制面では、タックスヘイブンであり、法人税や個人所得税の税率が低いこと、株式への譲渡益課税や銀行預金の利子に対する源泉徴収もありません。さらに、相続税や贈与税もありませんので、多くの企業や個人が香港の利便性を享受してきました。
しかし、今回の香港富裕層の動きは、日本の富裕層や企業にとっても憂慮すべき事態となっています。公約どおりであれば、この先20数年間は現状の制度が維持されるはずですが、中国の政治的な動きによって、今までと同様に従前の税制が維持され、活動拠点や投資先としての価値が維持されるのか、今後の動向は極めて不透明な状況です。
また、香港富裕層の海外の脱出先や資産の移転先がどこなのかということも大いに気になります。最も有力なのがカナダとオーストラリア、その次が台湾、シンガポールと報道されています。これらの脱出先等が、日本の富裕層や企業にとって使い勝手の良いものかどうかの検討も必要となってきます。
今後は、政治的な動きを睨みつつ、香港の経済的な地位がどうなるか、ビジネスとしての拠点足りうるかなどを見据えながら、香港での現在の投資やビジネスの展開を慎重に検討していく必要があると思います。