過日、15年前ぐらいにご自身を被保険者とした米国の終身保険、いわゆる海外生命保険を中途解約された方がいました。一時払いでお支払いになられた保険料をベースに考えると、概ね2.2倍ぐらいのキャッシュリターンがありました。
今の日本の生命保険(日本国内で加入できる生命保険契約)でこれほどのキャッシュリターンを期待できるものはありません。40年ぐらいの前の養老保険等であれば別ですが、今の経済環境では想像すらできません。
年齢や性別、健康状態によっても条件は変わってくるので一概には言えませんが、財産的な条件を考えない場合の契約できる死亡保障の金額も比べ物にはなりません。
一例ですが、33歳男性で見たときに、最も条件の良い日本の生命保険では、ドル建て終身保険で945万ドル(約10億円)が保障額の上限で、支払保険料に対する保障額の割合は2.8倍程度でした。20年後の解約返戻金額は約1.33倍です。
一方、海外(オフショア)の生命保険では、同じ33歳男性で保障額の上限は、十分な財産状況が証明できれば150億円~200億円程度まで加入できます。先の日本の生命保険と同じ支払保険料での保障額を比べると、なんと1,470万ドル(約15.5億円)です。支払保険料に対する保障額の割合は4.3倍の契約ができます。また、20年後の解約返戻金額も1.70倍程度です。
何故、このような差が出てくるのでしょうか。保険会社がおかれている運用環境の差や管理コストの差だと言われています。また、一説には横並びの金融行政がもたらした競争力の低下だとも言われています。
このように数値面で海外生命保険は日本の生命保険に比べてケタ違いに有利なのです。しかし、手放しでこれらの海外生命保険に加入できるわけではありません。
一つは日本の保険業法への対応の問題であり、もう一つは、かかる手間暇を鑑みた場合の契約金額というロットの問題です。
保険業法への対応の問題というのは、概要でお話しすると、保険業法第186条1項で、日本に支店を設けていない海外の生命保険業者については、日本に住んでいる人との保険契約を禁止しています。第186条2項では、日本に住んでいる人が海外の生命保険業者に申し込みをする場合は内閣総理大臣の許可を受けなさいということになっています。許可を受けずに申し込みをすると「50万円以下の過料」(同337条)です。
186条1項は、日本国内での話であり、海外で活動する保険業者には効力が及びません。ですので、海外で契約を結ぶ限りにおいて問題にはなりません。問題は2項で、日本の居住者が日本で認められていない保険業者へ保険を申し込む場合は、条文を文字通りに読めば、たとえ海外で契約したとしても内閣総理大臣の許可がいるわけです。
ただ、この186条の立法趣旨では、この法律が作られた時代に、日本の居住者がわざわざ海外に出向いて保険を契約することまで想定していなかったのです。実際、過去にこの保険業法違反で罰則を受けた人もいません。それでも法律は法律ですので、こういった問題があることを理解して 申し込みを判断しなければなりません。
もう一つの契約金額のロットという問題は、日本居住者の保険契約を許してくれる生命保険会社やエージェント等の選定の問題、保険申し込みのためのストラクチャーの構築など多くの課題があることから、ある程度の契約金額のロットが実務的なレベルで求められるということです。
保険の申し込みのためにわざわざ海外へ出向くわけですから時間もコストもかかります。相続対策といったような特別な目的のために、ある程度コストをかけてでも保険の申し込みをするようなケースがほとんどではないでしょうか。ですので、契約する保険料も数千万円から数億円、数十億円と金額は大きなものとなります。
海外生命保険は、日本の生命保険に比べて運用面や保障面でケタ違いに有利であり、相続対策などの手段として有効ですが、上記で述べた問題もあります。海外生命保険の活用については慎重な判断が必要となります。