「プリザベーションの原則」とは
プリザベーションの原則とは、租税条約適用上の一般原則であり、租税条約によって国内法に基づく租税負担以上の課税はできないというものです。
租税条約と国内法との関係でいくと、租税条約を含む「条約」は、一般的には関連する国内法制に優先して効力を有すると理解されます。
日本においても、憲法第98条第2項において、「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に順守することを必要とする」と規定し、これを根拠としています。
つまり、租税条約の定めに抵触するような国内法を制定しても租税条約の定めが優先し、その範囲において国内法は適用されません。例えば、租税条約によって定めた限度税率(源泉徴収税率)を超えるような税率で源泉徴収する国内法を制定したとしても、その規定は適用されず、租税条約で定めた限度税率までしか源泉徴収ができないことになります。
一方で、租税条約で定められた税負担が国内法で定められた規定よりも大きい場合、杓子定規に租税条約を優先するとすれば、納税者の税負担はかえって増加することになり、これではもともと国際間の事業取引や投資取引の二重課税の排除・軽減を目的とする租税条約の趣旨に反することになります。
そこで、このような事態を防止するための原則が「プリザベーションの原則」になります。すなわちプリザベーションの原則とは、条約締結国が国内法上有する租税についての減免措置や納税者にとって有利な国内法上の規定は、租税条約の適用で損なわれない、保護・維持されるものという原則なのです。
これにより、国内法で非課税にされているものを租税条約によって課税がなされたり、国内法の税率以上の税率を租税条約で定めてもその税率では課税されません。ここに租税条約が課税を免除あるいは減免する方向にしか働かない理由があります。
租税条約は国内法に優先しますが、それは納税者にとって有利な方向でのみ優先し、これは、プリザベーションの原則によって担保がなされています。