海外在住者の株式売却益33億円無申告!~非居住者の株式譲渡課税の例外に注意~ | アタックス税理士法人 国際部

海外在住者の株式売却益33億円無申告!~非居住者の株式譲渡課税の例外に注意~

2024年7月26日

コールセンターの運営会社の元代表でモナコ公国に住む日本人男性(56)が、

同社が買収された際に個人として得た所得約33億円を税務申告しなかったとして、

関東信越国税局から無申告加算税を含め約6億2千万円の追徴課税を受けたという報道がありました。

海外に住む個人が株式を売却した場合、日本で課税を受けるのか、

国際税務の取り扱いについて整理します。

1.非居住者に所得税が課税される所得の範囲

海外勤務中の方など、日本国内に1年以上「住所」を有しない個人のことを「非居住者」と言います。

こういった「非居住者」が保有している国内株式を売却する場合、日本で所得税が課税されるのでしょうか?

所得税法上、「非居住者」が日本で所得税が課されるのは「国内源泉所得」のみです。

この点「非居住者」が行う株式の譲渡は、たとえ日本法人の株式であったとして海外での譲渡となります。

したがって、日本国内に恒久的施設(PE)を有しない限り、「非居住者」の株式の譲渡による所得は「国外源泉所得」となり、原則として、日本の所得税は課税されません。

2.非居住者の株式譲渡で課税される場合

例外的に、非居住者が行う株式譲渡の場合でも下記の①から⑥に該当する場合には「国内源泉所得」とみなして所得税が課せられることになっています。(所得税法161条、所施令法281条1項④~⑧)

①買い集めによる株式等の譲渡

日本国内企業の株式(上場株式)を買い集め、保有者として優位な地位を利用して、その株式を発行法人に株式譲渡する場合が該当します。

②事業譲渡類似の株式等の譲渡

株式譲渡年以前3年内に、発行済株式総数(又は総額)の25%以上を保有していた特殊関係株主等(※1)が、発行済株式総数(又は総額)の5%以上を譲渡した場合です。

実質的に、その法人の事業を譲渡しているのと同じと考えられるからです。

③税制適格ストックオプションの権利行使により取得した特定株式等の譲渡による所得

税制適格ストックオプションの権利行使により取得した株式譲渡は、居住者と同じように譲渡所得課税が行われます。(税制非適格ストックオプションは課税されません)

④不動産関連法人の株式の譲渡による所得

株式譲渡の前年12月31日に、不動産関連法人(※2)の特殊関係株主等(※1)が、発行済株式総数の5%(非上場株式の場合は2%)超を保有かつ、譲渡者自身がこの特殊関係株主等である場合の譲渡も課税が行われます。

これも実質的に、日本国内の不動産を売却した場合と同じと考えられるからです。

⑤日本に滞在する間に行う内国法人の株式等の譲渡による所得

日本の証券会社の特定口座は、非居住者になる時点で廃止となりますが、出国前に所定の手続を行えば、日本に一時帰国した際の取引が可能です。

非居住者が、一時帰国時に生じた売却益は、居住者同様に所得税が課税されます。

⑥株式形態の国内ゴルフ会員権の譲渡による所得

「株式形態」のゴルフ会員権を非居住者が譲渡(売却)する場合、所得税が課されます。(預託金形式のゴルフ会員権には課税されません)

(※1)特殊関係株主等とは、当該会社の株主並びに株主の親族、支配会社等をさします(非居住者等も含む)。

(※2)不動産関連法人とは、株式譲渡日から起算して1年前~譲渡直前の時のいずれかの時期に、保有する資産総額のうち、不動産等が50%以上を占める法人(法令178⑧)。外国法人も含みます。

3.海外在住者が日本で課税された理由

モナコに住むこの男性は、売却前にすべての株式を買い集めて博報堂に売却したと報道されています。

もともと支配株主であったと思われますが、発行済株式総数の25%以上をずっと保有していて、M&Aのために買い集めを行ってすべての株式を売却したので、②の事業譲渡類似株式の譲渡に該当したのだと思います。

日本国内で所得税の確定申告が必要

非居住者の株式譲渡について所得税が課税される場合、日本国内で所得税の確定申告が必要となります。

申告方式や税率は、日本の居住者と同様となります。

申告分離課税(15.315%)と総合課税(累進課税となり最高で45.945%)での課税

①~⑤の上場株式や一般株式等の譲渡は申告分離課税で15.315%で課税が行われ、⑥のゴルフ会員権の譲渡は総合課税(累進課税)となり最高で45.945%で課税となります。

当然ですが住民税は課されません。

4.租税条約で減免がある場合も

上記①~⑥に該当する場合でも、租税条約により日本では課税されないことがあります。

例えば、日本と香港の租税条約(協定)では、海外居住国でのみ課税が規定されており、日本国内では課税されません。(日・香港租税協定13条6、21条1)

ただ、国によっては租税条約が結ばれていなかったり、租税条約があっても「事業譲渡類似の株式」や「不動産関連法人の株式」は、租税条約でも免除されない国が多いため注意が必要です。

日本とモナコの間には、執行共助条約のみしか結ばれていませんので日本・香港の租税協定のように日本での課税は修正されなかったのだと思われます。 なお、事業譲渡類似株式等の売却など、そもそも源泉徴収されない場合は、租税条約の適用関係につき特に届出は必要ありません。

5.まとめ

国際税務の課税ルールについては、居住者と非居住者で課税される所得の範囲が異なったり、

租税条約によって国内法が修正されたりと複雑です。

課税が行われる主体、当事者ごとに立ち位置を確認し、適用される税法等があるかどうか租税条約を含めて慎重に確認して実行することが必要です。

編集者アタックス税理士法人 代表社員 国際部部長 公認会計士・税理士 伊藤 彰夫
資本政策、事業承継、相続対策、M&Aの各ニーズに対応したコンサルティングに数多く従事。企業やオーナー富裕層のグローバル展開に伴い国際税務にも深く携わり、移転価格税制への対応、海外を活用したファイナンシャルプランニング、クロスボーダー対応などの実績をもつ。事業戦略に沿った組織再編コンサルティング、自社株対策を中心とした事業承継コンサルティングのほか、国際税務対応コンサルティング、企業・個人の国際戦略立案コンサルティングに定評。現在、アタックスグループパートナー、アタックス税理士法人代表社員、国際部(アタックス・グローバル・コンサルティング)部長として国際部を率いる。

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