海外移住する際、年金の支払いについて気になる方もいるのではないでしょうか。結論としては、加入している年金が厚生年金か国民年金かによって対応は異なります。
本コラムでは、海外移住者の年金の支払いの有無や知っておくべき年金制度について解説します。
海外への移住を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
海外移住したら年金はどうなる?知っておくべき基礎知識
海外移住する場合、加入している年金が厚生年金か国民年金かで納付方法は変わります。日本の年金制度の基礎知識を知りつつ、海外移住した場合の対応を理解しておきましょう。
厚生年金は継続して支払う
日本企業に勤めている方が転勤などで海外移住する場合、移住先の国と日本が社会保障協定を結んでいれば、厚生年金を継続できます。社会保障協定には、二国間の年金の二重加入を防ぐ目的があるため、現地の社会保障制度に加入する必要はありません。
厚生年金の継続が可能なのは5年以内です。とはいえ、海外赴任は5年以内が多い傾向にあるため、海外移住しても厚生年金をそのまま支払うケースがほとんどです。
国民年金は資格喪失となる
日本企業に勤めたままではなく、移住先の企業に赴任したり現地で仕事を探したりする場合、国内では国民年金第1号となります。そして海外移住する際、国民年金は資格喪失となります。
ただし、日本国籍であれば、国民年金への任意加入は可能です。加入する場合は、日本に在住している方と同じ額を、以下の方法から選択して納付します。
- 国内の預貯金口座から引き落とす
- 国内にいる家族・親族が代わりに納める
なお、自営業者など国民年金を前納しており任意加入しない場合は、還付を受けられます。
海外移住する際に知っておきたい年金制度
海外移住する際に知っておくべき年金制度について、以下3点を説明します。年金制度を理解したうえで、海外移住の計画を進めましょう。
社会保障協定が適用される国がある
社会保障協定とは、社会保障の二重加入を防ぐため、1カ国のみの制度に加入する協定です。2024年7月時点での協定国は、アメリカやドイツなど23カ国となります。
日本企業に勤めている方が協定国へ赴任する場合、期間が5年以内であれば厚生年金を継続するケースがほとんどです。また、自営業など日本ですでに事業を起こしている場合、一時的(5年以内)であれば日本の社会保障のみの加入で問題ありません。
一方、5年を超える場合や初めて自営活動を行う場合は、移住先の社会保障への加入が必要です。
海外で暮らしている間は「カラ期間」となる
カラ期間(=合算対象期間)とは、年金を納付していなくても受給資格期間に算入される期間で、海外滞在中に適用されます。
老齢基礎年金の受給は、保険料納付済期間と保険料免除期間などを合算した受給資格期間が10年以上あることが条件です。日本での年金保険料納付期間が10年未満であっても、カラ期間を含めて10年以上となれば、年金を受給できる可能性があります。
なおカラ期間は、日本国籍であれば海外に移住したタイミングから適用されます。
海外に住んでいても日本の年金を受け取れる
海外で暮らしていても、所定の手続きをすれば年金を受給できます。その際、移住先で開設した現地の銀行口座へ、年金を送金することも可能です。
ただし年金を受給するには、年金請求書を日本の最終住所地を管轄する年金事務所・年金相談センターなどに提出する必要があります。海外で日本の年金を受け取る場合は、手続きを忘れずに行いましょう。
海外移住しても日本の年金を納付する強み
国民年金第1号被保険者が海外へ移住する場合、国民年金への加入は義務ではなくなります。しかし、国民年金に任意加入すると、以下3つの強みがあります。
- 老齢基礎年金の受給額が減らない
- 障害基礎年金を受給できる
- 家族が遺族基礎年金を受給できる
カラ期間は受給資格期間が加算されるのみですが、国民年金を納付しておくと受給額の加算も可能です。
また、海外で予期せぬ障害を負った場合、日本の障害基礎年金を受給する資格を維持できます。
加えて、移住先で万が一の事由があった際には、残された配偶者や子どもが遺族基礎年金を受給する権利を確保できます。
海外移住する際は年金の手続きを忘れず行いましょう
海外移住する際は、厚生年金・国民年金に関係なく、見直し・確認が必要です。各年金制度の加入継続の可否や納付方法を理解したうえで、海外生活の準備を行いましょう。
なお、海外移住する際には、年金だけでなく税金についても注意する必要があります。
海外移住者の税金納付の有無や必要な手続きについては、以下の関連記事をご覧ください。
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編集者:アタックス税理士法人 国際部 編集チーム