最近では、海外進出をする際には、その手続きや進出後の税務処理が、比較的簡易なため、現地法人を設立することが多い傾向があります。
ただ、海外進出の目的や段階によっては、他の進出形態を検討することも考えられます。
今回は、海外進出時の主な進出形態と税務リスクに関して、整理していきます。
海外進出時の検討事項
海外進出を成功させるためには、海外進出に関する目的や進出形態、進出方法などを整理し、税務上の注意点・対応事項を事前に把握しておくことが重要です。
具体的には、
海外進出の目的の明確化
その目的に応じた海外進出先や海外進出形態の検討
(進出国の)社会情勢や市場動向、税務の特徴
進出後の資金の回収
現地拠点撤退手続き等を含む法律上の規制
などを検討する必要があります。
進出予定国の事前調査の重要性が問われるところです。
駐在員事務所
駐在員事務所の事業内容は、現地での情報収集等のみに制限されています。
そのため、現地での営業活動はできず、あくまで日本本社の一機関と位置づけられます。
駐在員事務所でかかる経費は、日本本社の経費として計上され、海外進出の第一歩という段階となります。
当然ですが、海外では法人税課税の対象とならず、課税の心配がありません。ただし、国によっては、駐在員事務所も海外支店と同様に課税されることがあるので注意が必要です。
海外支店
海外支店は、進出国により事業内容に制限が課される場合があります。
駐在員事務所と同様に日本本社の一機関と位置づけられますが、海外支店は営業活動をするため、現地での課税を受けます。
このため、海外支店の所得と日本本社の所得を明確に区分して把握する必要があります(会計的に言えば本支店会計の導入です)。
海外支店の申告により課税された税額は、現地国へ納めますが、日本本社での申告の際に(日本の)法人税から差し引いて計算がされます(外国税額控除の適用)。
海外子会社(現地法人)
海外子会社は、日本親会社とは別の法人となります。
海外子会社で獲得した所得は、現地でのみ課税されます。そのため、日本本社への影響は少ないといえます。
ただ、現地国で会計処理や法人税の申告手続きを行わないといけないため、相応のコストが必要となります。
現地の会計事務所との契約も重要となります。
海外子会社から、日本親会社に利益の配当を行った場合には、日本親会社では受取配当金について、一定要件のもと法人税法上の所得に算入しない制度(外国子会社配当金益金不算入制度)がありますので、投資資金の回収は比較的簡易にできます。
さらに気を付けないといけない税制は、外国子会社合算税制(外国子会社の企業実態がないと認定された場合に日本親会社への所得合算がされる)と移転価格税制(日本親会社との取引が適正価格でない場合は是正される)です。どちらも国際的な租税回避行為を規制する制度ですが、租税回避の意図がなくても形式的に課税される場合も多いので注意が必要です。
国際的二重課税に対する留意点
複数国間にまたがる経済活動を行う際には、日本国内の税制だけでなく、海外進出先の国の税制についても理解が必要です。
海外進出の形態によって、どちらの国にどこまで課税権があるかという複雑な問題が起こります。
場合によっては国際的二重課税(同一の所得に対して両国で課税されること)が発生する可能性があるので、制度を十分に理解することが重要です。
国際的取引の所得に対して課税する際には、「源泉地国課税」と「居住地国課税」の2つの課税方式があります。国際税務では、この2つの課税方式により、源泉地国と居住地国の2か国で課税される二重課税が発生することがあります。
源泉地国課税と居住地国課税
「源泉地国課税」とは、所得が生じた国(所得源泉地)で課税を行う方式です。海外支店で獲得された所得への課税が、これにあたります。
「居住地国課税」とは、納税義務者が居住する国(通常は本店所在地)で生じた所得だけでなく、国外で生じた所得も含めた全世界での所得に対して課税を行う方式で、日本親会社や海外子会社に対する課税が、これにあたります。
この2種類の考え方が、存在するため国際的二重課税が発生することが避けられません。
二重課税回避のための対策
国際的二重課税を回避する主な方法として、外国税額控除制度、外国子会社配当金益金不算入制度、租税条約という3つの制度・仕組みの活用があげられます。これらの制度を理解し、活用することで二重課税の発生を最小化することが可能です。
外国税額控除制度
配当などの源泉税や海外支店の現地法人税など、日本法人が納めた外国法人税について、日本の法人税額から控除することにより、二重課税を防止する制度を外国税額控除制度といいます。必ずしも外国税額の全額が控除されるわけではなく、法人税額などに基づく控除限度額の範囲内で控除されます。
外国子会社配当金益金不算入制度
日本親会社の所得計算において、一定の要件(海外子会社株式の25%以上を6カ月以上保有など)を満たした海外子会社からの配当金については、剰余金の配当等の95%相当額を益金不算入とすることで、二重課税を防止します。
租税条約
二重課税の排除・軽減や、脱税の防止など目的として、二国間で締結された税金に関する取り決めを租税条約といい、日本では、租税条約は国内法に優先して適用されます。租税条約を締結している二国間で、所得源泉地国での課税を制限するなどして二重課税を排除します。
租税条約は、二国間で締結される条約であり、相手国ごとに内容が異なっているため、進出国ごとに条約を確認する必要があります。
最後に
今回は、海外進出形態とそれに伴う国際的二重課税について整理しました。
進出国ごとに税制が違うことを認識していただき、制度の調査を怠らないことが、租税リスクの回避につながると考えられます。
今回は法人税を中心に記述しておりますが、現地国の会社法や許認可などの制度についてもよく調査して、海外進出を検討していただきたいと考えております。
執筆者:アタックス税理士法人 主任コンサルタント 角谷 伸司
主に中堅・上場企業の法人顧客を担当し、クライアントの会計・税務問題の解決に深く携わる。特に、税務調査の場面では、課題となる事案に関し見識を生かし、顧客の立場に寄り添った対応が高く評価される。