外国税額控除を効果的に活用することで、外国で支払った税金の日本との二重課税の調整および二重課税の調整の繰越といったメリットを得られる場合があります。
この記事では海外所得を得ている「個人の日本居住者の方」に向け、外国税額控除の効果的な活用方法について、ケーススタディを交えながら紹介します。既に海外投資をしている方だけではなく、これから海外投資を考えている方にも役立つ記事です。ぜひ、ご参考ください。
外国税額控除の基本知識についておさらい
外国税額控除とは、日本に居住している方(日本居住者)が日本と海外で二重課税となった場合に、海外で支払った税金の一定額が控除される制度です。
外国税額控除方式を利用すると、海外で支払った税金が最大で全額控除されます。二重課税の負担を軽減するためにも、制度を積極的に活用しましょう。
外国税額控除とは?算定方法や必要となる手続きをわかりやすく解説
知って役立つ外国税額控除における2つの制度
ここでは、外国税額控除制度のなかから「控除限度額の繰越制度」と「みなし外国税額控除」の2つを解説します。どちらの制度も、上手く活用すれば二重課税の負担軽減につながるでしょう。
控除限度額の繰越制度
外国税額控除には、限度額を超過した場合に活用できる繰越制度があります。「外国で支払った税額」が「日本の税金から控除できる限度額」を超えたときに、翌年以降に繰り越して控除できる制度です。
一定の条件を満たすことで、控除が生じた年の翌年から3年まで繰り越せる可能性があります。なお、繰越が生じるようであれば、その年の確定申告で外国税額控除の明細が必要です。
みなし外国税額控除
海外には、発展途上国など優遇税制を取り入れている国がいくつかあります。みなし外国税額控除とは、これらの国で支払い不要とされた外国税額を日本の税額控除対象額に含められる制度です。
みなし外国税額控除を活用すれば、支払っていない税金が支払ったものとして控除され、納税額が抑えられます。ただし財務省によると、みなし外国税額控除は現時点で徐々に減少・廃止の方向で動いている点に留意しましょう。
ケーススタディで外国税額控除を理解しよう
ここでは個人で外国所得を得ている方に向け、外国税額控除のケースを実例に基づいて紹介します。どちらのケースも過去3年の控除余裕枠は残っていないと仮定します。
ここで紹介するケースはあくまでも個別の事例です。疑問や不安があれば、国際税務に詳しい税理士に相談しましょう。
case1:不動産売却による控除限度額の繰越事例
登場人物 | 田中さん(仮名) |
概要 | 令和5年、A国で所持していた不動産を売却した。このままだと日本でもA国でも所得税が発生するため、日本で外国税額控除の申請をしたいと考えている。 |
解説:納税の基本的な流れは、次のとおりです。
令和6年 | |
日本 | 令和5年分の譲渡所得税を納税 |
A国 | 令和5年分の外国所得税を納税 |
令和7年 | |
日本 | 令和6年分の確定申告で外国所得税の還付を受ける |
令和7年に行う確定申告の際に「令和6年にA国へ納付した令和5年分の外国所得税」が「令和7年に控除できる日本の控除限度額」を超えていた場合、超過した部分は、翌年以降の確定申告(3年以内)で還付となります。
なお、超過していない税額部分は令和7年に還付を受けられます。
case2:著作権使用料によるみなし外国税額控除の事例
登場人物 | クリエイターの佐藤さん(仮名) |
関係国 | 中国(2024年時点におけるみなし外国税額控除対象国) |
概要 | 佐藤さんは日本国内で音楽を制作。中国に拠点を持つ法人が中国で佐藤さんの音楽を使用。佐藤さんは著作権による使用料10万円を得た。 |
解説:
まず、中国で徴収される租税額は、使用料(佐藤さんの得た収入)の10%です。つまり、10万円の10%=1万円が徴収されます。その後、佐藤さんは日本で確定申告を行う際に、外国税額控除の規定により中国で徴収された租税額の控除申請ができます。
佐藤さんが中国で実際に徴収された租税額は10%です。しかし中国はみなし外国税額控除の対象国であるため、このケースでは10%ではなく「20%納税した」とみなされます。したがって、佐藤さんが中国で支払った税金は20%の2万円とみなされ、日本の税金から控除されます。
外国税額控除を賢く利用して海外投資を円滑に行おう
外国税額控除を効果的に活用すれば、海外投資も円滑に行えます。投資をはじめ、海外で所得を得るのであれば、外国税額控除の知識は不可欠です。
しかし、税金の仕組みは複雑で、特に海外の租税制度が絡むと個人ですべてを理解するには限度があるでしょう。分からない点があれば、国際税務に明るい税理士にご相談ください。
編集者:アタックス税理士法人 国際部 編集チーム