移転価格調査、その備えは万全ですか?~企業を守るための重要ポイント解説~ | アタックス税理士法人 国際部

移転価格調査、その備えは万全ですか?~企業を守るための重要ポイント解説~

2025年1月15日

グローバル化が加速する中、海外子会社との取引は企業にとって不可欠な要素となっています。

しかし、その一方で、国際的な税務ルールである「移転価格税制」に関する調査も増加傾向にあり、企業経営における重要なリスク要因として認識する必要があります。

移転価格税制とは、国際的な取引価格の妥当性を検証し、不当に低い価格設定によって利益を海外へ移転することを防ぐための制度です。

税務当局から追徴課税を受けるリスクを回避し、企業を守るためには、日頃からの入念な準備と適切な対応が欠かせません。

移転価格文書/企業を守る盾を構築する

移転価格税制において、移転価格文書である「ローカルファイル」は企業を守るための必須装備と言えるでしょう。

ローカルファイルは、個々の取引価格の妥当性を裏付ける詳細な資料であり、以下の要素を含めることが重要です。

企業概要および事業内容

事業活動の内容、組織構造、関連会社との関係などを明確に記載します。

機能・資産リスク分析 (FAR分析)

各関連会社が取引において担う機能、使用する資産、負担するリスクを分析し、その結果に基づいた適切な価格設定方法を決定します。

比較対象分析

外部データベースなどを活用し、無関係企業間における類似取引の価格を調査・分析することで、自社の取引価格の妥当性を検証します。

選定理由書

比較対象として選定した取引やデータの妥当性について、根拠を明確に説明します。

さらに、多国籍企業グループ全体で統一的な移転価格政策を採用している場合は、「マスターファイル」の作成も推奨されます。

マスターファイルは、グループ全体の事業概要、移転価格政策、グループ内取引の概要などを網羅的にまとめたもので、ローカルファイルと合わせて提出することで、税務当局の理解と信頼を得やすくなります。

提出期限/時間との闘いを見据える

税務調査において、移転価格文書の提出を求められた場合、期限内に対応することは非常に重要です。

期限内に提出できない場合は、ペナルティの対象となるだけでなく、企業の信頼性にも傷がつく可能性があります。

移転価格文書は、作成に時間と労力を要するものです。

税務調査が開始してから準備を始めるのでは、時間不足に陥る可能性も否めません。

日頃から移転価格文書の作成・更新を継続的に行い、常に最新の状態を維持しておくことが肝要です。

説明責任/論理的な説明で信頼を獲得する

税務調査では、提出した移転価格文書の内容について、税務当局から詳細な質問を受けることが想定されます。

この際、単に資料を提出するだけでなく、取引内容や価格設定の根拠について、論理的で明確な説明を行うことが求められます。

税務当局とのコミュニケーションを円滑に進め、企業の主張を理解してもらうためには、以下の点に注意することが重要です。

専門用語を避けた分かりやすい説明

税務の専門知識がない人にも理解できるよう、平易な言葉で説明することが重要です。

図表や資料を用いた視覚的な説明

複雑な取引内容や分析結果を分かりやすく伝えるために、図表や資料を積極的に活用しましょう。

質問には誠実に対応

税務当局の質問には、ごまかさずに、誠実に答えることが大切です。

同時文書化と推定課税の2つの制度を理解する

移転価格税制において、「同時文書化」と「推定課税」は、企業にとって特に重要なキーワードです。

これらの制度を正しく理解し、適切な対応を行うことが、税務調査におけるリスクを低減し、企業を守ることにつながります。

同時文書化/大企業グループに求められる情報開示

一定規模以上の多国籍企業グループに対し、グループ全体の移転価格税制に関する情報を網羅的にまとめた「マスターファイル」と、国ごとの事業活動や納税状況を記載した「国別報告書」の作成・提出を義務付ける制度です。

同時文書化の対象となる企業

事業年度開始の日の属する事業年度の前々事業年度における連結売上高が1,000億円以上の企業グループ

同時文書化のメリット

税務当局への透明性向上

グループ全体の事業活動や移転価格政策を開示することで、税務当局との信頼関係を構築し、調査の負担軽減につながる可能性があります。

ダブルタックスリスクの軽減

各国の税務当局との間で情報共有が進むことで、二重課税のリスクを低減できる可能性があります。

同時文書化の注意点

  • マスターファイル、国別報告書の作成には、高度な専門知識と膨大な作業量が必要となります。
  • 機密情報の管理には、厳重なセキュリティ対策が求められます。

推定課税/文書化義務のない企業も油断禁物

同時文書化の対象とならない中小規模の企業であっても、移転価格税制のリスクから完全に解放されるわけではありません。

税務調査において、取引価格の妥当性を証明する資料が期日までに提出されなかった場合、税務当局は「推定課税」を行うことができます。

推定課税とは

推定課税とは、税務当局が、独自の判断で課税対象となる所得金額を推計し、課税を行う制度です。

推定課税が行われると、企業にとって不利な結果となる可能性が高いため、注意が必要です。

移転価格税制は複雑かつ専門性の高い分野であり、企業だけで対応することは容易ではありません。

税理士などの専門家のサポートを積極的に活用し、万全の体制で税務調査に臨むことが、企業を守るための最善の策と言えるでしょう。

執筆者アタックス税理士法人 代表社員 国際部部長 公認会計士・税理士 伊藤 彰夫
資本政策、事業承継、相続対策、M&Aの各ニーズに対応したコンサルティングに数多く従事。企業やオーナー富裕層のグローバル展開に伴い国際税務にも深く携わり、移転価格税制への対応、海外を活用したファイナンシャルプランニング、クロスボーダー対応などの実績をもつ。事業戦略に沿った組織再編コンサルティング、自社株対策を中心とした事業承継コンサルティングのほか、国際税務対応コンサルティング、企業・個人の国際戦略立案コンサルティングに定評。現在、アタックスグループパートナー、アタックス税理士法人代表社員、国際部(アタックス・グローバル・コンサルティング)部長として国際部を率いる。

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