はじめに
国外転出課税制度は、平成27年7月1日以後に国外転出をする日本の居住者が1億円以上の対象資産を所有している場合に、国外転出時に対象資産の譲渡等があったものとみなして、その対象資産の含み益に所得税及び復興特別所得税(以下、「所得税等」といいます。)を課税する制度です。
対象資産の譲渡を実際には行っていないにも関わらず、国外転出を要件として所得税等を申告する制度であるため、既に海外へ出国された方の中には認識の無いまま所得税等の課税漏れとなっている場合があります。最近では、CRS制度の導入により、海外口座開設や海外送受金の履歴から、海外への出国が把握されることも多く、税務署などからの問い合わせが増えています。
なお、国外転出時課税の申告の必要がある方が、国外転出時までに一定の手続きを行い、納税額に見合う担保を提供した場合には、納付すべき税額について、納税猶予を受けることができます。また、日本に帰国するなどの一定事由に該当する場合にも、税額の減額措置を受けることができます。
制度の概要
国外転出っていつ?
国外転出とは、「国内に住所及び居所を有しなくなる」ことをいい、日本の居住者が1年以上海外に滞在することにより日本の非居住者になることいいます。例えば1年以上の海外転勤(出向)、海外留学、海外移住などは「国外転出」に該当します。
対象資産は?
国外転出時課税制度の対象となる資産の範囲は、以下の通りです。
- 有価証券(国債、社債、株式、新株予約権、投資信託など)
- 匿名組合契約の出資の持分
- 未決済の信用取引・発行日取引・デリバティブ取引
上場会社株式の他、非上場会社株式などが対象資産に含まれますが、現預金や貸付金、一定のストックオプションなどは対象資産には含まれません。
納税猶予制度とは?
納税猶予制度は、国外転出時までに納税管理人の届出を行い、かつ、対象資産の含み益に係る所得税等の額及び利子税の額に相当する担保を提供することで、所得税等の納税が5年間(延⾧の届出により10年間)猶予される制度です。なお、担保として提供できる財産は以下の通りです。
- 不動産
- 国債・地方債
- 税務署⾧が確実と認める有価証券
- 税務署⾧が確実と認める保証人の保証 など
上場会社株式であれば担保提供資産として問題は無いと思われますが、非上場会社株式については、税務署長の許可が必要となるなど一定の手続きが必要になります。手続きが複雑になるので、専門家に相談することが有効であると思います。
適用される主なケース
- 海外進出のため社⾧もしくは社員が1年以上海外へ滞在する場合
海外進出のための人材確保や工場建設などの理由で、社⾧もしくは社員が海外に赴き現地で陣頭指揮をとるため、1年以上海外に滞在する場合には、社長の保有する対象資産の合計額が1億円以上であれば、国外転出時課税の適用を受けます。
- 社長の子供が1年以上の海外留学をする場合
相続対策や株式の承継が進行中で、社長の子供に資産が移されている場合には、子供の対象資産が1億円以上の場合も考えられます。つまり、子供が1年以上の海外留学をする場合には、国外転出時課税の適用を受けることになります。
子供の留学などは、顧問税理士などにも話をしないことが多いので、社長自身が注意する必要があります。
- ストックオプションを行使した社員が海外に出向となった場合
社員に対して、ストックオプションの付与をしており、上場後に当該ストックオプションを権利行使しているとき、社員の保有する株式の価値が1億円以上となることがあります。
社員が海外出向する場合には、国外転出時課税の適用を受けることになります。
- 非居住者へ贈与又は相続した場合
1億円以上の対象資産を保有している日本の居住者が、日本の非居住者の方に対象資産を贈与又は相続した場合にも国外転出時課税の適用を受けます。
この場合には、非居住者に贈与又は相続した対象資産の時価が1億円未満であったとしても、国外転出時課税が適用されますので注意が必要です。
最後に
「国外転出時課税制度」は、国外転出時に対象資産の含み益に所得税等が課税されるもですが、国外転出時の前に納税管理人の届出を行い、かつ、担保提供することで所得税等の納税を回避することが可能となります。また、対象資産を継続保有し、納税猶予期間内に帰国する(日本の居住者になる)ことで、国外転出時の所得税等の課税の取消しをすることができますので、国外転出時における納税管理人の届出の提出を失念しないように注意が必要です。
最近では身近になった、海外出向や子供の海外留学などで「海外に住むことになった」ときには、その国外転出前に専門家に相談することをお勧めします。
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執筆者:アタックス税理士法人 主任コンサルタント 角谷 伸司
主に中堅・上場企業の法人顧客を担当し、クライアントの会計・税務問題の解決に深く携わる。特に、税務調査の場面では、課題となる事案に関し見識を生かし、顧客の立場に寄り添った対応が高く評価される。