国内法における課税関係と租税条約における課税関係を検討する際に、使用地主義・債務者主義という考え方の整理が必要になります。
例えば、工業所有権等の使用料の源泉地を判断する場合です。
1.国内法の取り扱い
工業所有権がどこで使用されたか、使用地により判断する使用地主義をとっています。
2.租税条約の取り扱い
一方で、日本が締結している租税条約の多くは工業所有権の使用地に関係なく、誰が使用料を支払うのか、債務者の居住地国により源泉地を判断する債務者主義をとっています。
従って、国内法が使用地主義であるのに対して、租税条約の多くは債務者主義をとっており、両者には差異が生じています。
事例に基づき説明します。
ある内国法人が、ドイツ外国法人の保有する工業所有権を海外で使用して使用料を支払う場合、この外国法人が受け取る使用料について、国内法に基づけば使用地主義となり日本では課税されませんが、租税条約を締結している国の外国法人の場合、租税条約に基づけば債務者主義となり日本で課税が生じる理屈になります。
このように使用料にかかる所得源泉地が2つの国に重なる場合には、租税条約の規定よりも国内法の規定が有利なときは租税条約の適用を制限できます(プリザベーションの原則)。
これは、以前のコラムでもご説明しました。(7/9コラム:租税条約において理解しておくべきこと)
しかし、国内法においては、国内源泉所得として規定する所得(所得税法161条の2号所得から12号所得)について、租税条約の定めがある場合、上記各号に掲げる所得を国内源泉所得としてみなすと規定しています(所得源泉地置換え規定、所得税法162条)。
その結果、国内法で規定しているこの「所得源泉地置換え規定」に基づき、国内法に基づく国内源泉所得が租税条約で規定されている国内源泉所得に置き換えられ、結果として租税条約に基づく課税関係が適用されることになります。
従って、内国法人が債務者主義を採用している国の居住者(外国法人及び非居住者)に使用料を支払う場合には、その工業所有権等がどこで使用されるかにかかわらず、日本で課税されることになります。
原則、内国法人が20.42%の源泉徴収を行って納税を行うことが求められますので注意が必要です。