新型コロナウィルス感染症(以下、「コロナ」)の影響によって海外赴任中だった従業員が日本に一時帰国し、赴任先に戻ることができずに日本滞在が長期化するケースが多くみられます。このようなケースにおいて生じる税務上の留意点を今一度整理していきたいと思います。
今回は、一時帰国者の一時帰国中に支給を受ける給与に対する課税関係について確認していきます。
Q. 日本法人である当社は、コロナの全世界における拡大に伴い、海外現地法人へ赴任している海外勤務者を日本に一時帰国させました。一時帰国後は、日本国内において赴任先法人の業務を行っています。
海外勤務期間中、この海外勤務者に対しては現地払い給与の他、日本法人から留守宅手当を支払っていました。一時帰国期間中についても同様に給与支給を行う予定ですが、この海外勤務者に対して日本法人から支払う給与についての課税関係はどのようになりますか?
A. 通常、1年以上の予定で海外勤務している場合には、日本の非居住者に該当し、非居住者については国内源泉所得に対してのみ日本で課税されることになります。
海外勤務期間中に日本法人から支払われる給与は、「海外での勤務の対価」であり国外源泉所得に該当するため、非課税となります。
しかし、日本に一時的に帰国し、日本において業務を行った場合に日本法人から支払われる給与は、たとえ赴任先法人の業務を行ったとしても「日本で行った業務に対する対価」として国内源泉所得として所得税の課税対象となり(所得税法161条1項12号イ)、日本法人は、その支払の際に所得税等の源泉徴収をする必要が出てきます(所得税法212条1項等)。
なお、日本と赴任先国との間の租税条約に「短期滞在者免税」規定が置かれている場合にはどうなるでしょうか?
短期滞在者免税の適用要件を満たす場合、租税条約の届出書の提出等の所定の手続きを行うことによって日本での課税は免除されることになります。
短期滞在者免税の要件は、下記3つの要件を満たすことが必要になります。
- 滞在期間が課税年度又は継続する12か月を通じて合計183日を超えないこと
- 報酬を支払う雇用者等は、勤務が行われた締結国の居住者でないこと
- 給与等の報酬が、役務提供地にある雇用者の支店その他の恒久的施設によって負担されないこと
※この要件は一般的なものであり、個々の租税条約等によって特に①の日数の要件が異なる点に注意が必要です。
日本法人から支給する給与は、上記の②の要件を満たさないため、短期滞在者免税の適用はありません。非居住者に対する給与として支払の際に20.42%の税率により源泉徴収が必要となりますので注意が必要です。
次回は、赴任先国から一時帰国者へ支払われる給与についての課税関係を取り上げる予定です。