一時帰国者が一時帰国中に赴任先国から支給を受ける現地払い給与に対する課税の取り扱いについて、以前コラムで確認しました(https://www.attax.co.jp/kokusai/column/post-2351/)。今回は、その中でも少し触れている非居住者の国外払い給与等についての確定申告の手続きである、いわゆる「172条申告」について確認していきたいと思います。
172条申告とは?
【事例】
A氏は、ドイツの親会社から日本子会社に7か月の予定で派遣されました。日本滞在期間中の給与は、全額ドイツの親会社から支払われます。この場合、A氏は日本での申告が必要となるでしょうか。※ドイツ親会社は日本に支店等を有していないものとします。
【解説】
国内での滞在期間が契約等によりあらかじめ1年未満であることが明らかであるため、A氏は日本の非居住者として扱われることとなります。非居住者については国内源泉所得に対してのみ日本で課税されることになります。日本滞在期間中に支払われる給与は、「日本で行った業務に対する対価」として国内源泉所得として所得税の課税対象となります。
今回の場合、A氏の給与はドイツ親会社が支払うため国外払いとなり、かつ国内にドイツ親会社の支店等がないため、源泉徴収が行われません。
このように、非居住者が日本の源泉徴収の対象とならない国内源泉所得に該当する給与や報酬等の支払いを受けた場合には、原則として日本の準確定申告書を作成し、その提出期限までに申告及び納付を行う必要があります。これが、一般的に「非居住者の172条申告」と呼ばれているものになります。
172条申告が免除されるケースとは?
非居住者で源泉徴収がされない国内源泉所得等の支払いを受けた場合であっても、申告の必要がないケースもあります。
➀国内源泉所得等の金額が著しく少額である場合
所得税基本通達161-41では、「……国内において行った勤務又は人的役務の提供に係る部分の金額は,国内における公演等の回数,収入金額等の状況に照らしその給与又は報酬の総額に対する金額が著しく少額であると認められる場合を除き,次の算式により計算するものとする。……」と規定されています。
例えば、上記のA氏が短期の日本出張で得た給与等はこれに当たる可能性があります。ただし、いくらなら著しく少額といえるのかは明らかとなっていないため、注意が必要です。
②租税条約の短期滞在者免税の規定の適用がある場合
現地国との間に租税条約で短期滞在者免税の規定があり、下記3つの要件を満たすことが要件となります。
・滞在期間が課税年度又は継続する12か月を通じて合計183日を超えないこと
※日数は、個々の租税条約等によって異なるため注意が必要です。
・報酬を支払う雇用者等は、勤務が行われた締結国の居住者でないこと
・給与等の報酬が、役務提供地にある雇用者の支店その他の恒久的施設によって負担されないこと
上記のA氏のケースですと、日独租税条約第14条(2)より183日を超えているため短期滞在者免税の適用はありませんが、183日を超えない場合にはこの規定の適用により課税が免除されることとなります。
172条申告の申告期限と申告方法
172条申告の申告書の提出期限は翌年3月15日とされていますが、その前に国内に居所を有しないこととなる場合は、その有しなくなる日が期限とされており,出国するまでに申告書を提出する必要があります 。172条申告で用いる申告書の様式は、通常の確定申告書と異なり以下の様式を使用して申告を行うこととなります。具体的には、収入金額に20.42%を乗じて納付税額を計算していくこととなります。
参考HP 国税庁HP