多国籍企業の税務調査では、移転価格税制の視点からも検討がされるため、製品取引や金銭消費貸借取引などのモノやカネが動く取引以外にも、注意をしなければいけない取引があります。それが、グループ内役務提供(IGS: Intra Group Service)です。
日本の親会社が海外子会社に対し出張や出向による支援や経理や人事の代行サービスなどの支援業務を提供した場合には、グループ内役務提供を行ったものとして、海外子会社から適切な対価を収受する必要があります。これは、移転価格税制上の論点となります。
一部の例外を除いて、親会社が通常行う業務が課税対象となる
国税庁の公表している、移転価格事務運営要領3―10では以下の業務がグループ内役務提供として、例示されております。
その業務は、「企画又は調整」「予算の管理又は財務上の助言」「会計、監査、税務又は法務」「債権又は債務の管理又は処理」「情報通信システムの運用、保守又は管理」「キャッシュフロー又は支払能力の管理「資金の運用又は調達」「利子率又は外国為替レートに係るリスク管理」「製造、購買、販売、物流又はマーケティングに係る支援」「雇用、教育その他の従業員の管理に関する事務」「広告宣伝」があげられており、通常親会社が子 会社のために提供すると思われる活動の、大半が含まれています。
税務調査では、客観的な事実に基づき上記の業務が、親会社で行われている場合には、親会社での収益計上漏れを指摘される事が予測されます。
確認ポイント
その業務を第三者へ提供したならば、対価を得るかどうかを検討する事です。この場合に、取引関係は無視して考える事が肝要です。重要な取引関係にある第三者を思い浮かべて想定した場合には、適正な判断が出来ない事が散見されますので注意が必要です。
親会社で行っている業務を見直す事と、業務に対する会社の考え方(ポリシー)を整理しておく必要があります。
株主活動であれば、IGSに該当しない
移転価格事務運営要領3―10(2)(3)において、重複活動と株主活動については、グループ内役務提供から除くこととされています。
重複活動とは、海外子会社と日本親会社とで重複して行っている活動で、このような活動については海外子会社が事業判断の誤りに係るリスクを減少させるため、あえて重複して行っているもの等でない限りにおいて、海外子会社のために行っているものとは認められないため、グループ内役務提供から除かれます。
また、株主活動とは有価証券報告書作成のための活動や日本親会社の役員が海外子会社の株主総会に出席するなどのため海外に出張することですが、この様な活動もグループ内役務提供から除かれます。
確認ポイント
当該活動における実施者と実施業務を整理して、客観的な視点で判定する事が必要となります。
役務提供対価は人件費等のコストをベースに一定のマークアップ
それでは、グループ内役務提供の対価はどの様に決めるべきでしょうか。一般的には、親会社で要した人件費等のコストに、一定のマークアップ率を乗じることで対価を算定します。なお、その際対価算定のベースとなるコストには給与等の直接コストだけでなく、一般管理費も含まれることに留意が必要です。
また、マークアップ率については、高すぎると費用の支払いを行う海外子会社側で移転価格税制上問題になり、低すぎると役務提供を行う日本側で移転価格税制上問題になるため、業務の性質に応じた適正なマークアップ率を乗じる必要があります。ここでも第三者間取引価格を意識する事が必要です。
くどい様ですが、移転価格税制では、重複活動と株主活動に該当しない限り、グループ内役務提供について、対価の収受が必要となります。将来の税務調査に備え、会社としての業務内容と考え方(ポリシー)を整理しておく事をおすすめします。