以前のコラムでは、日本の移転価格税制の制度概要について整理させていただきましたが(参照)、今回は、移転価格税制における重要な要素である「独立企業間価格」について整理したいと思います。
独立企業間価格とは
独立企業間価格(ALP:Arm’s length price)とは、国外関連者との取引について、同様の状況のもとで、独立した第三者間において同種の取引が行われた場合に成立するであろうと認められる価格をいいます。
移転価格税制においては、法人がその国外関連者との間で行う取引が、独立企業間価格によらず所得が国外に移転していると認められる場合には、その取引について「独立企業間価格」で行われていたものとして、所得が再計算され課税されることになります。
独立企業間価格の算定方法
この独立企業間価格の算定方法は、「OECD移転価格ガイドライン」に基づいて、以下の算定方法が規定されています。
基本三法
- 独立価格比準法(CUP法)
関連者間取引で用いられている価格が、非関連者間の類似の取引と同等の価格かどうかで、判断する方法です。
- 再販売価格基準法(RP法)
国外関連者から仕入れた商品を、第三者に販売(再販売)する場合に、適切な粗利益をとっているかで判断する方法です。
- 原価基準法(CP法)
国外関連者に商品の販売やサービス提供をする時に、売上原価に適正な粗利益を加えているかどうかで判断する方法です。原価に適正な粗利益を加えた金額が独立企業間価格とされます。
その他の法令で定める方法
- 利益分割法(PS法)
複数の関連者間取引から生じた利益を合算し、それを各関連者間取引に振り分ける方法で、以下の3つの方法があります。
・比較利益分割法
・寄与度利益分割法
・残余利益分割法
- 取引単位営業利益法(TNMM)
関連者間取引から得られる営業利益の水準を比較して、独立企業間価格を求める方法です。数々の算定方法の中でも多く採用されている方法です。
- DCF法
ディスカウント・キャッシュ・フロー法は、OECD移転価格ガイドラインにおいて比較対象取引が特定できない無形資産取引等に対する価格算定方法として有用性が認められている方法です。
独立企業間価格の選定
独立企業間価格の選定にあたっては、算定方法それぞれの長所と短所を吟味し、国外関連取引の内容や国外関連取引の当事者の果たす機能への適合性等を十分に検討します。
上記の算定方法のうち、価格を直接比較するCUP法及び価格に近接する売上総利益の水準を比較するRP法・CP法は、営業利益の水準に着目するPS法及びTNMMに比べ、より独立企業間価格を直接的に算定できるという長所があります。
しかしながら、企業取引の複雑性や類似取引の探索が困難なことも多く、近年は、利益法として包括されるPS法やTNMMが選定されるケースが多く見受けられるようになりました。
移転価格税制の令和元年度税制改正
令和元年の税制改正では、OECD移転価格ガイドラインの改定内容を踏まえ、独立企業間価格の算定方法の整備等がなされました。特に、大きな利益を生み出す独自性の高い無形資産への対応を考慮した改正がなされました。
- 独立企業間価格の算定方法の整備
独立企業間価格の算定方法として、DCF法が追加されました。
- 評価困難な無形資産取引に係る価格調整措置の導入
予測キャッシュ・フロー等を基礎として算定する評価困難な無形資産取引について、予測と実際の結果が相違した場合には、税務当局が実際の結果を勘案して当初の価格を再評価できるようにしました。(ただし、再評価後の価格が当初の価格の 20%を超えて相違した場合のみ)
- その他
移転価格税制に係る更正の請求期間を7年に延長することや比較対象取引に係る差異調整方法として、統計的手法に基づく方法が認められるようになりました。