移転価格調査の概要 | アタックス税理士法人 国際部

移転価格調査の概要

2022年6月21日

以前のコラムで、日本の移転価格税制について、「制度の概要」「独立企業間価格」について整理しましたが、今回は、現行の「移転価格調査の概要」についてまとめたいと思います。

移転価格調査と一般法人税調査の位置づけ

従来は、移転価格調査と一般法人税調査は別々に行われてきましたが、2013(平成25)年の国税通則法の改正以後、移転価格調査についても法人税調査の一部として調査することが原則となっています(一の調査)。移転価格税制は、法人税の特別法である租税特別措置法66条の4を根拠条文としますので、法人税の範囲に含まれます。

税務調査の際は、調査対象科目や対象期間等について事前通知がなされますが、その通知の中で、税務当局から「法人税の調査の区分に係る同意」が求められなければ、一の調査として同時に行われます。

「区分の同意」に応じた場合、移転価格と一般法人税の調査が別々に実施されますが、そうでない場合、法人税の調査が終了すれば、同期間の移転価格についても調査が終了したことになります。移転価格の調査では過去6年まで遡ることができますが、一度調査が終了した場合は、新たな事実が発見されない限り再調査を行いませんので、企業側にとってはメリットが大きいと言えます。

ただ、一の調査の場合であっても、海外子会社の決算書等から所得移転の可能性を判断し、会社の移転価格税制への対応が不十分な場合、本格的な移転価格調査に移行することも考えられます。

移転価格調査の流れ

1.調査の開始

税務当局から納税者等に調査開始の連絡があります。移転価格と一般法人税の区分の同意は、通常はこのタイミングで求められます。この「区分の同意」があるかないかで、本格的な移転価格の調査を予定しているかどうかが分かります。

2.資料の依頼

租税特別措置法施行規則第22条の10に基づき、国外関連者との取引に関る事実関係に関する資料や移転価格算定方法に関する資料の提出を求められます。また、関連部門へのインタビューを求められることもあります。

3.調査期間中

調査担当者からの意見が書面により提出されます。そして、会社側も根拠を示した反論書を提出して議論を行うことになります。このプロセスを数回経て調査は終結に向かいます。

4.調査の終了

移転価格設定の問題の有無にかかわらず調査終了時に報告が行われます。移転価格設定に問題があったと判断された場合、修正申告書の提出を勧奨されます。納税者が修正申告に応じない場合は、更正通知が発行されることになります。

移転価格調査において留意すべき事項

作成義務免除対象になっているのローカルファイル(LF)の提出期限は、調査官から指定される60日以内の日です。この日までに提出できないと、法律的には、推定課税等の発動要件を満たすことになってしまいます。期日の管理はしっかりと行う必要がありますし、問題がありそうな海外子会社との取引については、事前に十分に時間をとって準備しておくことが重要です。

国税通則法第74条の11第6項は、「新たに得られた情報に照らし非違があると認めるとき」、過年度の調査終了した事業年度まで遡って質問検査等の行使を可能としています。実際の調査においては、上記要件を満たす事実関係が不明瞭なまま、調査終了事業年度にまで調査を遡及させようとするケースも見受けられますので注意が必要です。

また、調査の終盤においては、相手国との間に租税条約があるか、その中に対応的調整規定があるかを確認しておく必要もあります。条約の規定がないと相手国との相互協議によって二重課税を排除することができないため、税務当局と争訟で争うしかなくなります。

さらに、相互協議が可能であっても、実質的に協議が長期に渡るなど、相当難航する国もありますので、そういった事情も勘案して対応しなければなりません。

一般的な移転価格調査は1年~2年かかり、調査期間中は税務当局からのさまざまな資料依頼に応じる必要があります。また、日本における移転価格調査の場合、最大過去6年まで遡って課税することが可能であるため、更正を受けた場合の追徴税額は高額になることが多く、企業にとっては大きな負担となります。

繰り返しになりますが、日本親会社の利益に比べて海外子会社の利益が比較的高い場合などは、移転価格ポリシーの設定を含めて事前に十分時間を取ってローカルファイル(LF)の作成等をお勧めいたします。

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