「国外財産調書制度」の概要①~皆さん、調書への対応大丈夫ですか?~ | アタックス税理士法人 国際部

「国外財産調書制度」の概要①~皆さん、調書への対応大丈夫ですか?~

2022年11月15日

昨今は、日本人の海外赴任や留学、国際結婚など経済活動の国際化により、ヒト・モノ・カネの国境を越えた取引が急増し、海外に預金や証券・不動産などを容易に持つことができるようになりました。また、国内に居住したままであっても、昨今の財政事情の悪化から、将来の日本の経済状況を憂えて、海外投資を行う人も増えています。

そこで、「国外財産調書制度」について改めてポイントを整理していきたいと思います。今回は、「国外財産調書制度」の概要について触れていきます。

「国外財産調書制度」の導入背景

これらの経済情勢の変化により、実際、国外財産に係る所得や相続財産の申告漏れが年々増加するようになりました。日本の税務当局は、こうした背景から、現行の所得税や贈与税、将来の相続税の徴収漏れを防ぐため、富裕層の財産状況の把握に努めるようになりました。

平成24年度税制改正により、居住者の海外における財産状況を報告させるようにしたのが「国外財産調書制度」です。よく似た制度として「財産債務調書制度」があり、「国外財産調書制度」はこれの海外版です。

「国外財産調書制度」の概要

具体的に、国外財産調書を提出しなくてはならないのは、その年の12月31日時点で、保有する国外財産の価額の合計が5、000万円を超える「非永住者以外の居住者」です。

ここでいう「居住者及び非永住者」とは、

居住者 : 国内に住所を有し、または現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人

非永住者  : 居住者のうち、日本国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において国内に住所または居所を有していた期間が5年以下である個人

要するに国籍を問わず、日本に5年超、長く住んでいる人です。永住権をもって日本に住んでいる外国人の方は要注意です。

(1)   国外財産の判定

国外財産とは、文字通り「国外にある財産」のことです。国外にあるかどうかの判定は、財産の種類ごとに判定します。

基本的には、相続税法で規定するところによります。主な財産としては、

不動産または動産:その不動産または動産の所在地

預貯金または積金:その預金、貯金または積金の受入れをした営業所・事業所の所在地

有価証券や出資金など:その有価証券を管理する口座が開設された金融商品取引業者などの営業所などの所在地

生命保険金又は損害保険契約の保険金  :その契約に係る保険会社等の本店または主たる事務所の所在地(これらが日本にないときは、それらの事務を行う営業所・事業所等)

退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与:その給与を支払った者の住所または本店もしくは主たる事務所の所在地

貸付金 :その債務者の住所または本店もしくは主たる事務所の所在地

不動産や預貯金は分かり易いと思います。例えば、ハワイや海外での投資不動産は対象となりますし、海外の金融機関の預金口座も対象です。

また、プライベートエクイティなど海外の会社への個人での出資やいわゆる海外生命保険への個人での取組みも対象となりますし、個人が信託を通じて海外の金融機関から借入金を起していればこの借入金も対象となります。

(2)   国外財産の評価方法

国外財産の評価は、その年の12月31日時点で行いますが、評価方法は、「時価」か「見積価額」によることとされています。

「時価」とは、通常、不特定多数の者の間で自由な取引が行われる場合の市場価格をいいますが、専門家などによる鑑定額なども含みます。

「見積価額」とは、その財産の取得価額や売買実例価額などをベースに、合理的な方法により算定した価額をいいます。

海外に保有する土地建物等については、日本の路線価のような評価基準が必ずしも存在しているわけではありません。その場合は、鑑定評価額や固定資産税評価額などを参考にして評価することになります。

土地については、海外での固定資産税評価額のほか、取得価額をベースとした見積価額や、その年の翌年にその財産を譲渡したような場合は、譲渡価額自体により評価することもあります。

また、建物については、その年の12月31日における償却費を経過年数に応じて計算し、それを取得価額から控除して計算した金額を計上します。

さらに、海外の財産は、日本円に換算する必要がありますが、原則として、その年の12月31日におけるその外貨の対顧客直物電信買相場(TTB)で換算を行います。

もし、その年の12月31日にその相場がない場合には、この日の前の相場のうち、もっとも12月31日に近い日付の相場によって換算することになります。

(3)   5,000万円を超えるかどうかの判定方法

① 借入金で国外財産を購入した場合

海外の不動産を1億円で購入した際の購入資金の内、借入金8,000万円がある場合、国外財産調書に記載すべき金額は如何でしょう。1億円なのでしょうか。それとも、借入金を加味した金額の2,000万円になるのでしょうか。

この場合、不動産の取得価額1億円が記載すべき金額となります。借入金で購入したとしても、国外財産調書に記載すべきは、財産価額1億円そのものです。

不動産評価額が購入時から変動しているのであれば、そのことも加味した上で記載すべき金額を検討します。

② 夫婦共有名義の財産の場合

国外財産を夫婦で共有している場合には、原則として、共有持分の比率で按分します。しかし、共有する者の持分比率が定まっていない場合または明らかでない場合には、各共有者の持分は等しいものと推定し、その推定した持分に応じて按分した価額を国外財産調書に記載することとなります。

③家事用と事業用を兼用している資産の場合

個人事業主の場合には、国外財産の中には、事業とプライベートの兼用財産が含まれていることがあります。この場合、按分する必要はなく、すべてを事業用資産として考えた上で、減価償却資産の償却後の価額によることができます。

ご相談・お問い合わせはこちら
コラムお問い合わせ
上部へスクロール