コロナ禍での行動制限が緩和され、海外への渡航もある程度自由になりました。昨今の円安や物価高を受けて、海外での資産の持ち方や管理を検討される方も多いのではないでしょうか。
日本国内での低金利や資産運用の幅が限られる状況で、早くから海外で資産を管理・運用される方も多くいらっしゃり、海外に預金口座を開設される方は増加傾向にあります。
今回は、そういった海外の預金口座について、相続にあらかじめ備えた管理上の面と所得税や贈与・相続税の観点からの注意点を整理してみたいと思います。
海外預金口座の管理上の注意点
英米法系の国々で相続が発生すると、通常、裁判所での検認手続(プロベイト)を経て、遺産の確定と分配が行われます。
このプロベイト、実は大変な手続で、現地で弁護士や会計士等を雇うなどして対応しなければならず、それこそ多大な時間とコストをかけて対応することになります。場合によっては、数年間にわたって預金を引き出せない場合もあります。
そのような場合に備えて取られる方法が、ジョイント口座で、共同名義預金口座と呼ばれるものです。
共同名義預金口座は、複数の名義人で所有する銀行口座であり、夫婦や親族関係での名義利用が一般的かと思います。ジョイント口座の場合、共同名義人の1人が亡くなった場合でも、先ほどのプロベイト手続を経ずに他の名義人に口座を引き継ぐことができます。
このため、信託(トラスト)と同様に、プロベイトを回避する代表的な方法として利用されますが、税務的には、いくつか注意も必要です。
税務上の注意点:所得税と贈与・相続税
日本の税法では、共同名義にしただけでは直ちに「贈与」の認定を受けることはありません。
しかし、夫婦の共同名義口座に夫がお金を入金し、それを原資に不動産や大きな投資をする場合で、その不動産や資産の名義を妻の単独名義としたときや、夫婦の共同名義にしたときは、夫から妻への贈与の認定を受けることになります。
贈与と認定されないためには、原則として、妻が、共同名義口座の資金の出し入れを行わず、贈与を受けた妻が自由に資金を動かしているというような状況を作らないことです。
止むを得ず、妻が資金の出し入れを行う場合には、その使途が夫の目的であることを明確にしておくなど、資料を残して口座の管理を行うことが、税務当局の疑いを回避する意味で重要になります。
相続の場面でも、もともと夫がジョイント口座に入金していた場合で、夫婦のジョイント口座だからといってその2分の1相当だけを夫が亡くなった場合の相続財産として計上することも問題があります。
共有名義で半分は妻のものだという理由で、相続財産として申告しないと、相続税の申告漏れとなります。税務調査でこの夫婦のジョイント口座への資金の流れを確認すれば、ジョイント口座の資金が実質的に夫の資金であったことがすぐに判明します。
また、日本では、海外の預金口座で発生する利息についても日本の所得税が課税されます。ジョイント口座の実質的な入金者に基づき、利子所得を確定申告しなければなりませんので、毎年、利息の発生を確認して対応することが必要になります。
近年、日本の税務当局は、国外送金調書や共通報告基準(CRS)に基づく自動的情報交換制度を活用し、日本人の海外の金融口座には目を光らせていますので、海外の預金口座やジョイント口座を活用する場合は、税法や法律に則って適切に管理し、必要な申告や手続きを適時に行うことが重要です。