企業の海外進出も増加し、人材の国際的な交流も多くなってくるなか、海外法人の社員が日本へ出向することも多くあると思います。
たとえば、海外子会社で採用した外国人を一定期間日本に赴任させることや研修目的などで、一時的に日本で勤務・生活することもあるでしょう。
今回は、非永住者の所得税申告について紹介します。
”非永住者”というと難しく感じますが、海外からの派遣社員、いわゆるエクスパッツ(海外の本支店や関係会社などに所属している従業員が、日本に出向や派遣などにより滞在する場合の呼称)の方などはこの非永住者に該当することが多くみうけられます。
非永住者の定義は、居住者のうち、日本の国籍を有しておらず、かつ、過去10年以内において国内に住所などを有していた期間の合計が5年以下の個人をいいます。したがって、海外から派遣もしくは出向した社員の方で、1年以上の見込みで来日された方は、非永住者に該当することになります。
非永住者の課税の範囲
非永住者の税金がかかる対象(課税の範囲)は、居住者に比べて限定的であり、以下のように支払われた給与等になります。
- 国外源泉所得以外の所得(すなわち国内源泉所得)
- 国外源泉所得で国内において支払われたもの
- 国外源泉所得で国外から送金されたもの
ここでいう、(国内or国外)源泉所得とは、所得の源泉(本人が働いて所得が発生した場所)を「国内」か「国外」であるかという視点で判断したものです。
すなわち、日本へ赴任されている外国人にとっては、働いている場所は「日本のみ」ですので、上記1は「日本で働いて支給される給与等(海外での支給分も含む)」、上記2は「海外でたまたま働いた期間があるのであれば、その期間分の給与等および海外に所有する不動産等から得られる収入で日本において支払われるもの」、上記3は「上記②の収入を得た後、海外の口座から送金されたもの」となります。
「送金」とは所得税基本通達7-6により、以下のように定められています。
たとえば、海外の口座から引き落としされるクレジットカードを日本国内で使用する場合なども「送金」の対象となりますし、日本国内でキャッシュカードを使って出金する(海外口座から支払われる)場合も送金とみなされます。
具体的には、非永住者が国外から送金を受領した場合、送金を受けた金額のすべてに課税されるのではなく、国外源泉所得の国外払いを上限に課税されます。
課税対象額(送金課税)の計算方法
①国外からの送金額-非国外源泉所得の国外払い
②国外源泉所得の国外払い
まず、①の金額を計算し、残余額があれば、①と②の金額を比較し、いずれか少ない金額を送金課税の対象とします。②の金額がなければ、送金課税はありません。
※「非国外源泉所得の国外払い」が赤字の場合、①の金額は「国外からの送金額」となります。
参考:所得税基本通達7-3(非永住者に係る課税標準の計算……送金を受領した場合)
所得税の課税対象額の計算例
計算例:まずは、X1年の課税所得を整理したうえで、所得税の課税対象額を計算します。
X1年の課税所得
非国外源泉所得(日本での勤務に係る給与)
国内払い:1,500万円×1,200万円/2,000万円=900万円
国外払い:1,500万円×800万円/2,000万円=600万円
国外源泉所得(米国での勤務に係る給与)
国内払い:500万円×1,200万円/2,000万円=300万円
国外払い:500万円×800万円/2,000万円=200万円
国外源泉所得(米国の不動産売却益)
国外払い:250万円
まとめると
区 分 非国外源泉所得 国外源泉所得
国内払い 900万円 300万円
国外払い 600万円 450万円(200万円+250万円)
送金課税額の計算
国外からの送金額 700万円
① 国外からの送金額-非国外源泉所得の国外払い 700万円-600万円=100万円
② 国外源泉所得の国外払い 200万円+250万円=450万円
①<② ∴ 100万円(課税対象)
X1年の所得税の課税対象額
900万円+600万円+300万円+100万円=1,900万円
経済的利益に関する課税
上記の送金課税額以外にも、エクスパッツの方には、日本国内における諸経費を企業が負担する事が多いため、以下のような経済的利益についても課税となるかどうかを検討する必要があります。
①社宅(家賃相当額)
所得税基本通達では、社宅の給与課税上の評価額を、その社宅の固定資産税課税標準額をもとに計算するよう定義していますが、賃貸物件の場合、その貸主から固定資産税の課税評価証明書を入手することは困難な場合が多く、
実務上では次のような処理をすることが散見されます。
a)役員社宅の給与課税上の評価額=実際家賃の50%相当額(注1)
役員社宅が小規模住宅の場合は、使用人と同じ評価額となる。
b)使用人社宅の給与課税上の評価額=実際家賃の10%程度の額(注2)
課税評価額の50%以上を本人から徴収していれば課税しなくても差し支えない。
②家具リース
全額課税
③車両リース
全額課税
(ただし、合理的な基準によりビジネス使用とプライベート使用に分けられる場合は、プライベート使用部分のみ課税とする場合も考えられる)
④駐車場
全額課税
(ただし、社宅の一部として駐車場が付随しており、駐車場代金の算定が困難な場合を除く)
⑤水道光熱費
全額課税
⑥子女教育費
全額課税
(ただし、アメリカンスクール等における寄付金プランによって、授業料等が免除される場合のその社員が受ける経済的利益については非課税となる場合あり)
⑦ホームリーブ費用
就業規則等により概ね1年以上の期間ごとに休暇のための帰国を認め、
その帰国旅行に必要な支出(その者と同一生計の家族を含む)負担については非課税。
- エクスパッツのみ適用対象のため、日本採用の外国人のホームリーブ費用は課税
- 運賃・時間・距離等に照らして最も経済的かつ合理的と認められる旅費を逸脱する部分は課税
(バカンスで立ち寄る旅費、ファーストクラスなどの特別シート代など) - 自らが帰国することに代えて家族を呼び寄せる費用(観光目的を除く)も非課税
⑧社会保険料・税金の補填
全額課税
(毎月の所得税や住民税、社会保険料個人負担分などを会社が補填する場合はグロスアップ給与課税、所得税の確定納付や予定納税など臨時的な補填の場合はグロスアップ賞与課税)
帰国時にも注意が必要
また、エクスパッツの方が、日本での勤務中に厚生年金制度に加入している場合、帰国によって、厚生年金の一時金を受け取る場合があります。
その一時金は、手続きの関係上、本人が帰国後(非居住者になる)に受け取ることになるため、非居住者に対する退職所得とみなされ、支給時に20.42% の源泉徴収が行われます。この源泉徴収税額については、納税管理人を設定し、確定申告をする事により、還付を受ける事ができます。
最後に、エクスパッツの方については、給与の源泉徴収などについては、通常の居住者と同様に処理をしていれば問題ありませんが、その課税範囲に注意して、確定申告の必要性については、本人に十分に説明し、理解していただいた上で、状況を把握することで、正しい申告が可能となります。
個人の生活費の一部に関することですが、正しい申告をするため、ひいては後に問題を残さないためにも、制度に基づいた対応が必要となります。