海外勤務中の非居住者が、内国法人の株式を売却したことによる所得は、いわゆる「事業譲渡類似株式」の譲渡や「不動産化体株式」の譲渡など一定の場合を除き、原則として日本では課税されません。非居住者の場合、日本で課税を受けるのは国内源泉所得のみとされているからです。
また、非居住者に対する課税は、日本国内に恒久的施設を有するか否かでその方法が異なります。
海外出向中の給与所得者であれば、一般的には恒久的施設(PE)を有しない非居住者かと思います。恒久的施設を有しない非居住者が株式等を譲渡した場合に課税されるのは、次の①から⑥のいずれかに該当する場合のみです。
① 買集めによる株式等の譲渡
同一銘柄の内国法人の株式等の買集め、その所有者である地位を利用して、当該株式等をその内国法人若しくはその特殊関係者に対し、又はそのあっせんにより譲渡をすることによる所得
② 事業譲渡類似の株式等の譲渡
内国法人の特殊関係株主等である非居住者が行うその内国法人の一定の株式等の譲渡(※1)による所得
③不動産関連法人の株式の譲渡による所得
④税制適格ストックオプションの権利行使により取得した特定株式等の譲渡による所得
⑤日本に滞在する間に行う内国法人の株式等の譲渡による所得
⑥日本国内にあるゴルフ場の株式形態のゴルフ会員権の譲渡による所得
このうち、①から⑤に該当するものについては、「上場株式等に係る譲渡所得等の金額」と「一般株式等に係る譲渡所得等の金額」に区分し、他の所得の金額と区分して税金を計算する申告分離課税となり、⑥に該当するものについては総合課税の対象となります。なお、これらに該当する場合は確定申告が必要です。
なお、これらに該当する場合であっても、租税条約により日本で課税されないことがあります。例えば、シンガポール居住者であった場合の日星の租税協定の内容を検討してみましょう。
同協定によると、以下に該当する株式の譲渡の場合を除き、株式を譲渡したことによる所得は、日本では課税されないことになっています。
- 不動産化体株式
その法人の主要な財産が不動産である場合 - 事業譲渡類似株式
株式の譲渡者が保有する株式(特殊関係者が保有する場合を含む)の数が、当該法人の株式総数の25%以上で、かつ、譲渡者及び特殊関係者譲渡した株式総数が当該法人の株式総数の5%以上である場合
以上から、シンガポールの居住者で日本の非居住者が、内国法人の株式を譲渡した場合の所得については、「事業譲渡類似株式」の譲渡や「不動産化体株式」の譲渡に該当する場合を除いて、日本では課税されません。
一方で、シンガポールにおける課税の問題がありますが、これはシンガポールの国内法に基づくことになります。シンガポールの国内法では、原則として、キャピタルゲインに対する課税は行われないこととなっています。